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BRIレポート
地域のお宝ブランド発掘!
Brand List No.13 『上庄里芋』

固い、粘り気が強い、煮崩れ知らず
 奥越の自然が育む里芋の最高峰


小ぶりだが、実の粘り強さは天下一品。今までにない里芋の食感に、思わず顔がほころぶこと請け合いだ
 福井県の内陸寄りの「奥越」と呼ばれる一帯で、全国的にも有名な里芋が作られている。その名も「上庄里芋」。年間収穫量は約600トンで、量からいえば名産地である宮崎県や千葉県に遠く及ばない。しかし、テレビの料理番組で紹介されるなど、知名度は抜群。その理由は、他の地域には見られない「食感」に隠されているようである。

 小ぶりで身が引き締まったその里芋は、噛むと驚くほどの粘り気を出す。まるで餅を彷彿させるような力強さだ。それに加えて、実が固いために煮っ転がしにしても煮崩れしないという優れた特質を持つ。

 「これは、他の里芋に比べてでんぷんの含有量が圧倒的に多いから。それはもち米に近い含有量ですよ。だから粘り気が強い。それに水分量が少ないから、実は固くなる。奥越地方では、煮っ転がしのほかにおでんなどにもこの里芋を入れますが、煮詰めても崩れないのはそのせいですね」と、JAテラル越前上庄支所で上庄里芋の栽培指導を担当する、宮沢浩一さんは解説する。その里芋の最高峰との呼び声も高い品質が、全国の美食家たちの支持を得ているのである。

寒暖差が大きい高地特有の気候がつくる“粘り強さ”

自前の水車を持つ家庭も少なくない。中に里芋を放り込み、水の力で土と外皮を取り除く
 でんぷんの含有量が高くなるのは、奥越の自然環境の影響が大きいようだ。福井はその昔、北の越前と南の若狭に分割されており、その越前の東部、現在の大野市や勝山市が位置する地方が奥越と呼ばれている。

 奥越という名称からもわかるように、そこはまさに福井の山奥。中央の盆地を囲むように1000m級の山々が連なる。その盆地に田畑が広がっているわけだが、そこでも標高が150m〜200mの高地にあたるため、気温は平野部とは大きく異なる。特に夏から秋にかけての季節の変わり目には、朝夕の寒暖差が激しい。この寒暖差こそがでんぷん質を多くし、粘り強さと美味しさにつながる秘訣となるのだ。

 この地方は水にも恵まれている。福井県に潤いを与える九頭竜川の源流がこの奥越の最深部にある。川は山を超え野を越え、遠く日本海を目指す。その間、水は周辺に暮らす人々の生活用水となり、もちろん田畑で育まれる農作物の、文字通り「命の水」となる。

 さらに、地域特有の土にも秘訣がある。奥越は周辺に流れる九頭竜川と真名川の氾濫で山から流出した土が堆積し形成された扇状地。その土は水はけのよい砂質土壌であり、これが、里芋の栽培には最適というわけである。

 そして、生産者のきめ細やかな努力も忘れてはならない。東南アジア原産の里芋は乾燥が大の苦手。従って、夏の暑い盛りは、土や葉の状態を逐一確かめ、天気と相談しながらこまめに水やりをする。地下で息づく里芋たちが水不足に陥らないように、また、適度な湿度を保てるように、細心の注意を払うのだ。

昔の保存食は今では秋の風物詩

地元の食卓に上る里芋料理の数々。一番手前の煮っ転がしは手軽で人気の調理法。煮崩れしないのがうれしい
  そうして豊かな大地で大切に育てられた里芋は、土の中で次々と実を付けていく。ひとつの親芋からは、数個の小芋が生まれ、小芋から孫芋が生まれる。調子がよければ曾孫芋がつくこともある。順調に成長した里芋は20個以上の大家族となり、実りの秋に収穫のときを迎えるのである。

 「先のほうにできるものほどでんぷん量が多い優れた芋になる。したがって孫芋は最高品質の『秀品』として取引され、小芋はその次のクラスの『優品』として出荷される。秀品と優品の割合は6対4くらい」と、宮沢さんは明かす。大元よりも末端のほうが美味という事実は、実に興味深いところだ。

 収穫期に入ると、奥越をはじめとする福井の食卓には、毎日のように上庄里芋が上ることになる。調理のポイントは、外皮だけをたわしなどで洗い落とし、内皮は残すこと。内皮を取らないのは、この里芋の大切な食感であるぬめりを中に封じ込められるためだ。

 奥越の旧家では、近辺を流れる小川に自前の水車を設けている家も珍しくなく、この水車の中に里芋を入れて、自然の水の流れで洗う光景も見られる。30分もすれば、土と外皮がすっかり除去された真っ白の里芋が顔をのぞかせるというわけだ。

 里芋の調理法は実に多彩である。煮っ転がしにしたり、おでんにしたり、田楽にしたり。里芋とともに様々な旬の野菜を鍋に入れ、醤油で味付けして煮込む、奥越伝統の「のっぺい汁」も代表的な料理である。その他、つぶしてコロッケにする、お菓子に使うといった家庭も少なくないそうだ。

 古くは室町時代からこの地での栽培が始まり、雪深い山奥で暮らす人たちが越冬するための保存食として重宝された里芋。時代が変わり、今では秋から冬にかけての福井に欠かせない風物詩として、現代人の食生活にも着実に根付いている。

里芋は健康食であり、実は縁起物の食材

太陽に向け青々とした葉を広げる。日中の暑い中で作り出したでんぷん等の成分は、寒くなった夜に地中の芋に送り込まれ、蓄積される
 2007年も間もなく収穫期が訪れる。時期は10月中旬から12月いっぱいまで。カビが生える心配のない、涼しくなった頃合を見計らって、全面積80haの畑から、420軒の栽培農家が一斉に収穫を始める。そのうち60ha分が農協を経由して、関西や関東の小売店の店頭に並ぶ。関東では、首都圏で72店舗を展開する中堅スーパー「コモディイイダ」や大手百貨店の三越の生鮮食料品売り場にお目見えするそうだ。一方、残りの20ha分は農家が通販などを通じて直接個人向けに販売される。

 里芋は今、健康食として注目の的。特有のぬめり成分の正体は、食物繊維の一種、ガラクタンとタンパク質と糖質の結合物質に、食物繊維のマンナンが混ざり合ったもの。食物繊維は便秘解消に効果的であり、さらにガラクタンは、脳細胞を活性化させ、老化やボケを予防する働きが期待される物質である。

 胃腸の表面保護、胃潰瘍や腸炎予防にも効果があるとされるムチンも含み、特に、上庄里芋では、他の里芋よりでんぷんの含有量が多いことも、セールスポイントである。このでんぷんは、粒子が細かく消化が容易なため、母乳の代わりに用いられた時代もあるそうだ。

 地下で次々と芋が増えていくことから、古くは「子宝に恵まれる」、「子孫繁栄を祈願する」縁起の良い食材として、もてはやされてきた上庄里芋。健康のために食べてもいいし、家族のことを思って食べてもいい。もちろん単に美味しさを期待して食べるのでも一向に構わない。秋は様々なストーリーに彩られた上庄里芋で、ぜひ未知の“粘り”を楽しみたい。

2008年1月20日

 

 


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