【岩手県】■南部鉄器 なんぶてっき

南部鉄器とは?

岩手県盛岡市と奥州市の両市で、岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者によって作られる茶の湯釜、鉄瓶(てつびん)、花器などの鋳物の総称。


商品・技術の特徴

繊細な鋳肌と重厚感のある味わいの着色が特徴の鉄を素材にした鋳物。茶の湯釜や鉄瓶に描かれている、様々な絵柄や均等に美しく並んだ粒による「霰(あられ)」の文様からは、職人の高度な技術とともに、作り手の心の機微が感じられる。
焼型、乾燥型の方法によって、作図に始まり、鋳型作り、紋様押し、肌打ち、金気止(かなけど)め、漆仕上げ等の工程を経て作られている。中でも鉄器の錆(さび)を防ぐための金気止めは、約900℃の炭火の中に約30分鉄瓶を入れて焼く、南部鉄器独特の技術である。
近年では、茶の湯釜や鉄瓶などの伝統工芸品にとどまらず、厨房用品、風鈴、灰皿、インテリア、アクセサリーなど、現代の暮らしに対応したモダンクラフトも開発・生産され、人気となっている。

歴史的背景

17世紀初頭、現在の岩手県盛岡市周辺を支配していた南部藩の藩主重直が、自藩から産出する良質の鉄などを原材料に使った茶の湯釜の制作を思い立ち、京都から釜師である小泉仁左衛門を召し抱え、湯釜を作らせたのが起源である。その後、各地から鋳物師や茶釜職人を寄せ集め、茶釜や日用品、武器を製造。現代では代名詞ともなっている南部鉄瓶は18世紀に入り、茶釜を改良して小型化したのが始まりで、手軽に扱えることから、広く普及した。

一方で、伊達藩が支配していた旧水沢市(現在の岩手県奥州市)でも、鉄瓶や鉄鍋、風鈴などの日用品の鋳物の生産が発展。武具などの軍需品を作る特殊な産業としても手厚い保護を受けたという。水沢周辺は砂鉄や鉄鉱石が産出し、鋳物の型作りに使用する川砂や粘土が北上川や周辺の山地から採取でき、さらに北上川を使った水運にも恵まれた。鋳物産業にとっての好条件が揃っていたことが発達した大きな要因である。

鉄道開通後は東北各地や北海道に販路を広げ、明治時代末期から大正時代にかけては、鉄瓶黄金時代を迎える。また、昭和30年代には盛岡と奥州で作られた鋳物を総称して南部鉄器と呼ぶようになった。

また、昭和34年には各産地の組織である南部鉄器協同組合(昭和24年設立)と水沢鋳物工業協同組合(昭和29年設立)が、共同の利益の保護増進と業界の振興発展を図ることを目的に、県内統一組織として、岩手県南部鉄器協同組合連合会を設立。伝統技法を守りながらの茶の湯釜や鉄瓶制作に加え、新商品開発や海外向け製品の開発、海外見本市への出店などに取り組んでいる。

認定要件(※伝統的工芸品認定に伴う「告知」より)

【技術・技法について】
1.鋳型造りは、次の技術又は技法によること。
(1)砂型(砂の鋳型)であること。
(2)溶湯(溶解され液状になった鉄)と接する部分の鋳物砂には、「真土(まね)」
  (細粒の砂に粘土と水を加えて混練したもの)を用いること。
(3)鋳型の造型は、「挽き型」(実型(さねがた)という素焼きの外枠に砂を入れ、
   その中で木型を回転させて鋳型を作る方法)又は「込め型」(木型に砂を込め鋳型を作る方法)によること。
(4)「挽き型」による場合には、鋳型の表面に「紋様押し」(南部鉄瓶の特徴的な「あられ」などの紋様を
   一つひとつ型押し棒を使って付けていく作業)又は「肌打ち」
  (筆などの道具を使って味わいのある表面にする作業)をすること。
(5)鋳型の焼成又は乾燥(「肌焼き」を含む。)をすること。

2.鋳物の表面は、漆及び鉄しょう(酢酸鉄)を用いて着色をすること。
3.料理用具として用いられるものにあっては、「金気止め」(サビ防止のために木炭炉の中で製品を焼く作業)
  をすること。

【原材料について】
1.鋳物の素材は、砂鉄又は鋳物用銑鉄とすること。
2.着色剤に用いる漆は、天然漆とすること。

※認定要件に使われる語句について説明が必要な場合は(  )で記述した(以下同)

事業者数:74社

従業員数:730名(推計)

主な事業者

滑竰
御釜屋
南部鉄器販売褐ユ山工房
距髢リ主善堂
挙。枝工房
距髢リ盛久工房
旧O山工房
及源鋳造

業界団体

岩手県南部鉄器協同組合連合会
〒020-0055 盛岡市繋字尾入野64-102
Tel. 019-689-2336
昭和34年設立

南部鉄器協同組合
〒020-0055 盛岡市繋字尾入野64-102
昭和24年3月設立
Tel. 019-689-2336

水沢鋳物工業協同組合
〒023-0132 岩手県奥州市水沢区羽田町字明正131
Tel. 019-724-1551
昭和29年3月設立

出荷額

約92億円(推計)
・その他
*昭和50年に経済産業大臣により、第一次の「伝統的工芸品※1」に指定されている。
*経済産業省が認定する「伝統工芸士※2」は21名。
*近年では、鉄器から溶け出す鉄の健康効果が知られて人気となるなど、外観の美しさのみならず、健康面からも再評価されている。

※1 工芸品の産地組合等からの申請に基づき、指定要件を満たすものを経済産業大臣が「伝統的工芸品」として指定。振興計画の基づく事業に対し、国から補助金を受けられる。また、指定を受けた伝統的工芸品は「経済産業大臣指定伝統的工芸品」と表示でき、シンボルマークである「伝統マーク」を使用できる。

※2 平成4年9月17日付通商産業省官報告示「伝統的工芸品等の製造に関する知識、技術及び技法の審査・証明事業認定規定」に基づき、経済産業大臣指定伝統的工芸品及び工芸用具または工芸材料の製造に従事する者を対象に「伝統工芸士認定試験」を実施し、合格した者を「伝統工芸士」として認定。