【岩手県】■岩谷堂箪笥 いわやどうだんす

岩谷堂箪笥とは?

欅や桐等の木を素材とし、漆塗りで仕上げられ、手打ちや手彫りによる堅牢かつ優美な金具が取り付けられた重厚で伝統的な和箪笥。岩谷堂(現在の奥州市江刺区)が発祥の地であり、今は主に岩手県盛岡市と奥州市(江刺区)が生産地。


商品・技術の特徴

古くは奥州藤原氏の時代から作り続けられてきたといわれる岩谷堂箪笥は、漆塗りの美しい杢目(もくめ)と、金属の板を叩いて作った飾り金具が調和する伝統の逸品。使われる木材は主に欅、桐、栗、杉だが、特に岩谷堂箪笥の代名詞ともなっているのが、重厚な杢目を持つ欅である。岩手県内では北上山系に良質な欅が多く、それを活用した箪笥作りが発祥の原点にあると考えられる。

また、岩手県は国内有数の生漆の産地であり、古来発展してきた漆塗装の技術も、箪笥作りに存分に活かされている。漆塗りには、主に拭き漆塗りと木地蝋塗りの2種類があり、どちらも手間をかけ丹念に仕上がられる。この漆塗りによって欅の杢目の美しさは際立ち、時を経るごとに独特の風味と重厚感を醸し出していく。

さらに、箪笥の内部には桐の無垢材を使用。岩手県は南部桐と呼ばれる桐の産地であり、桐は岩手県の花にも指定されている。桐は杢目が美しく高級感があるだけでなく、狂いがなく、防虫効果もあり、火にも強いため、大切な衣類を守るのに最適な木材といえる。

一方、飾り金具は一棹の箪笥に60〜100個取り付けられ、「手打彫り」のものと、「南部鉄器」のものがある。そのうち手打彫りには鉄製と銅製がある。手打彫りでは、厚さ0.8mm以上の地金を使用し、引手、蝶番、錠、鍵などすべての飾り金具を手作りで作っている。絵模様の種類は龍や花鳥、虎に竹、唐草、松竹、桐、牡丹など様々である。

岩谷堂箪笥の種類は、三尺、三尺半の整理箪笥を基本に、現在では洋服・衣裳・整理箪笥の三点セット、茶箪笥、書棚、小箪笥、座卓などラインナップが充実している。珍しいものでは、上面が段々になった階段箪笥、船内で金庫の役目を果たした舟箪笥、火事などの災害時にすぐに移動できるように底部に車輪が付いた車箪笥などがある。

歴史的背景

起源は平泉が繁栄した時期の康和年間(1100年代)。奥州藤原氏の始祖である藤原清衡が平泉に転居するまでの約30年間に、豊田城を本拠とし、産業奨励に注力していた時代に遡ると伝えられている。ただし、当時は箪笥というより、長持(衣類や道具を入れる大型長方形の箱)のようなものだったと考えられている。

その後、江戸時代中期(1780年代)に岩谷堂城主である岩城村将が米作経済から脱却すべく、箪笥の制作、塗装の研究、車付箪笥の開発に着手。1820年代には鍛冶職人によって彫金金具が考案され、鍵のかかる堅牢な金具も用いられるようになり、金庫の役目も果たした。また、当初は桐の模様が多かったが、後に虎に竹、龍、花鳥などデザインが多様化。これらが岩谷堂箪笥の原型となり、現代にその技術と意匠が継承されている。 明治時代に入り、箪笥が一般家庭に普及するとともに、岩谷堂箪笥の需要も増大。漆塗りと飾り金具の箪笥は人気となり、東北各地に出荷されるようになる。明治7年には538本が出荷されたという記録もある。大正の頃には重ね箪笥や上開き箪笥など、洗練されたデザインのものも登場した。

岩谷堂箪笥は、当時約20業者が個々に生産していたが、戦争による中断の後、昭和27年に協同組合が発足し、30年頃には月産200本まで復活を遂げる。だが、洋風家具の普及によって低迷し、36年には組合も解散した。

しかし、昭和40年代初めに東京の百貨店での展示会を皮切りに、首都圏の都市生活者の需要を開拓。再び伝統家具の良さが見直されるようになり、42年には岩谷堂タンス生産組合が設立され、江刺市の6業者が生産を続けた。51年には盛岡の2業者も参画し、岩谷堂箪笥生産協同組合を結成。生産量は年々増加し、平成9年には生産量6118本、売上7億7千万円を達成。現在も木工塗装業者、彫金業者が伝統を守り続けている。また、岩手大学との産学連携による共同研究の中で、伝統技術を守りながら現代生活に適合する箪笥のデザイン開発も試みている。

認定要件(※伝統的工芸品認定に伴う「告知」より)

【技術・技法について】
1.木材の乾燥は、自然乾燥及び強制乾燥によること。

2.使用する板材は、無垢材とすること。この場合において、板材の厚さは、天板、側板、たな板、束板、
 かんぬき、地板及び台輪にあっては18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、
 16ミリメートル以上)、裏板にあっては6ミリメートル以上とすること。

3.木地加工は、次によること。


(1)本体の箱組みは、次の技術又は技法によること。
 イ)側板に対する天板の接合は、5枚組以上の前留め組み接ぎ、前留めあり組み接ぎ又は留形隠しあり組み
  接ぎにより、側板に対するたな板の接合は、包み片胴付き追入れ接ぎ、包みあり形追入れ接ぎ又は剣留
  め両胴付き追入れ接ぎにより、側板に対する地板の接合は、5枚組以上の組み接ぎ又は包み打付け接ぎに
  より、側板に対する裏板の接合は、包み追入れ接ぎによること。
 ロ)天板、たな板及び地板に対する束板の接合は、包み片胴付き追入れ接ぎ又は剣留め両胴付き追入れ接ぎ
  により、束板に対する裏板の接合は、平打付け接ぎによること。
 ハ)天板に対する裏板の接合は、包み追入れ接ぎにより、たな板、地板に対する裏板の接合は、
  平打付け接ぎによること。

(2)引出しに使用する板材は、無垢板又は化粧板張りとし、化粧板は、厚さ3ミリメートル以上の挽き板と
 すること。この場合において部材の接合は、包み打付け接ぎ、包みあり組み接ぎ、組み接ぎ又は片胴付き
 追入れ接ぎによること。

(3)とびら又は引戸を付ける場合には、次の技術又は技法によること。
 イ)板物にあっては、板材は、厚さ18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、16ミリメートル以上)
  の無垢板又は化粧板張りとし、化粧板は、厚さ3ミリメートル以上の挽き板とすること。この場合において、
  部材の接合は、本ざね留め端ばめ接ぎによること。
 ロ)枠物にあっては、板材の厚さは、枠板にあっては18ミリメートル以上(「姫箪笥」に使用する場合は、
  16ミリメートル以上)、鏡板にあっては6ミリメートル以上とし、枠の部材の接合は、留形やといざね
  接ぎ又は留形挽き込み接ぎにより、枠板に対する鏡板の接合は、段欠き打付け接ぎ又は片胴付き追入れ
  接ぎによること。

4.塗装は、次の技術又は技法によること。
(1)ふき漆塗にあっては、生漆(精製途中で、採取したばかりのものに近い状態の漆汁)を繰り返し塗付した後、
 精製生漆又は透漆(上質の生漆から水分を取り除き、透明度を高めたもの)を用いて「仕上げふき」をすること。

(2)「木地呂塗」にあっては、クロメ漆(漆の木から採取した生漆を精製したもの)を用いて下塗をし、
 木地呂漆(油分を含まない透漆)又は呂色漆(油分を含まない黒漆)を用いて上塗した後、上塗研ぎ
 (炭を使った水研ぎ)をし「胴摺り」(砥粉(とのこ)に油を混ぜたもので塗装面を摺り上げる作業)をすること。

5.金具の製造は、次の技術又は技法によること。
(1)使用する地金の厚さは、0.8ミリメートル以上とすること。
(2)「鏨彫り」(たがねで金具を彫る作業)は、手作業により彫り鏨を用いて行うこと。
(3)「打ち出し」(金属板の裏面から模様や浮き彫りを打ち出す作業)は、手作業により木台及び金鎚を
   用いて行うこと。
(4)蝶番、錠及び鍵作りは、手作業によること。
(5)引き手(手をかけて引くために取り付ける金具)作りは、手作業により「わらびて型」、「もっこ型」、
   「ひるて型」又は「角手型」に鎚打ちし成形すること。
(6)さび止めは、焼いた金具に動物性繊維をすりつけた後、ろうを塗り布で磨くこと。
(7)色仕上げは、生漆を塗付し焼き付けること。


【原材料について】
1.木地は、ケヤキ、クリ、キリ、スギ、ニレ、タモ、キハダ、セン、カツラ若しくはホオ又はこれらと同等の
 材質を有するものとすること。
2.くぎは、「ガマズミ」製又はこれと同等の材質を有するものとすること。
3.漆は、天然漆とすること。
4.金具は、鉄製とすること。

事業者数:5社

従業員数:67名

主な事業者

糾竰J堂家具センター
滑竰J堂タンス製作所
彫金工芸 菊広
拠千家具製作所
挙。里木工所

業界団体

岩谷堂箪笥生産協同組合
〒023-1131 岩手県奥州市江刺区愛宕字海老島68-1
Tel. 0197-35-0275
昭和51年設立

出荷額:約3億円

その他

*昭和57年に経済産業大臣により、「伝統的工芸品」に指定されている。
*経済産業省が認定する「伝統工芸士」は14名。