【岩手県】■秀衡塗 ひでひらぬり

秀衡塗とは?

中尊寺(平泉町)に古来伝わる秀衡椀から呼称を取った椀や盆、菓子器、重箱、茶器、花器などの漆器の総称。菱形の金箔を使い漆絵による草花が描かれた秀衡文様が華麗な雰囲気を醸し出す。主な生産地は岩手県盛岡市、花巻市、一関市、奥州市、平泉町、滝沢村。


商品・技術の特徴

下地は、漆器の中でも最も堅牢といわれ、砥粉(とのこ)などの粉末を練り合わせ、粘土のようにしたものに生漆を混ぜて塗った「本堅地(ほんかたじ)」を採用。加飾は中尊寺に昔から伝わる漆器「秀衡椀」を手本に、「源氏雲」と呼ばれる雲の形と、複数の菱形を組み合わせて構成する「有職菱文様(ゆうそくひしもんよう)」を描く。光沢を抑えた美しい漆塗りの仕上げに華やかな菱形の金箔が貼られ、さらに草花や吉祥の図柄も配された独特のデザインである。

製法は、まず素材となる栃や欅などの木を乾燥させ、椀や盆などに加工する。完成した木地は生漆で固め(「木地固め」)、木地の薄い部位には補強のため布を貼り(「布着せ」)、その上に生漆と下地となる粉を混ぜたものを塗る(「下地塗り」)。さらに下塗り、中塗り、上塗りの3段階で漆を塗り、1回塗るごとにしっかり乾燥させ、乾燥させた漆の表面は砥石で磨いてく。上塗りが終わったものに雲の模様を朱の漆で描くとともに、菱形の金箔を貼り、雲と雲の間には草花や果実を描く「秀衡紋様」で加飾し、完成となる。

歴史的背景

平安末期の奥州平泉で栄華を極め、中尊寺金色堂などの仏教美術を当地にもたらした奥州藤原氏のもと、秀衡塗は始まったとされる。当時、奥州は金と漆の産地であり、権力と財力をほしいままにしていた藤原秀衡が、金色堂造営に際に京の工人に命じて作らせたとも言われている。江戸時代の寛政年間(1789〜1801年)にはいくつかの書物で「秀衡椀」として紹介され、江戸の茶人たちが珍重したとも記されている。

しかし、藤原氏が滅んでから数百年の間、どのように伝統と技術が受け継がれてきたかは定かではない。現在では発掘によって工房が存在したことは確認されているが、その歴史は謎となっている。
江戸時代後期からは中尊寺の裏手にある衣川村増沢で漆器作りの集落が形成され、昭和30年頃まで盛んに生産されていた。だが、同年の衣川ダム建設により異例の産地分裂となり、今では岩手県内の複数の地域で生産が続けられている。

認定要件(※伝統的工芸品認定に伴う「告知」より)

【技術・技法について】
1.木地造りにおいて、椀にあっては、その型状は、次の技術又は技法による「秀衡型」とすること。
(1)口縁部は、「内すぼまり」とすること。
(2)身部は、「丸み」をつけること。
(3)高台部(茶碗の胴や腰をのせている円い輪)は、「末広がり」とすること。

2.下地造りは、次のいずれかによること。
(1)「本堅地下地」にあっては、麻または寒冷紗(荒く平織に織って硬く糊仕上げした薄地の綿布)を用いて、
  「布着せ」をした後、地の粉を用いた「地付け」、地の粉と砥の粉を混ぜあわせたものを用いた「切り粉付け」
  及び「さび付け」(砥の粉を生漆と練ったものを木地に塗る作業)をすること。
(2)「漆地下地」にあっては、精製生漆と精製黒中塗漆(油分が入っていない黒色の漆)を混ぜ合わせたものを
  塗付しては水研ぎ(砥石を水につけて研ぐ作業)をすることを繰り返すこと。

3.塗漆は、次の技術又は技法によること。
(1)「下塗」及び「中塗」をすること。
(2)「上塗」は、花塗(油分を混ぜた上塗り用の漆(花漆)を塗り、研磨せずに仕上げる作業)又はろいろ塗
  (生漆に油類を加えずに精製した黒漆(蝋色漆)で上塗りして乾かし、研磨して光沢を出す作業)とし、
  椀にあっては、外黒内朱とすること。

4.加飾は、「雲地描き」、「箔貼り」及び「漆絵」による「秀衡模様」とすること。

【原材料について】
1.漆は、天然漆とすること。

2.木地は、次のいずれかによること。
(1)挽き物(ろくろや旋盤を用いて作った丸い器具・細工物)にあっては、ケヤキ、ホオ、トチ、ブナ又は
  これらと同等の材質を有する用材とすること。
(2)指物(木と木を組み合わせて作られた調度品)にあっては、ケヤキ、ホオ、ヒバ又はこれらと同等の材質
  を有する用材とすること。

3.加飾に使用する箔は金とし、金の純度は、1,000分の966以上とすること。

事業者数:11社(浄法寺塗を含む)

従業員数:32名(浄法寺塗を含む)

主な事業者

級・知屋
秀衡塗工房 糾ロ三漆器
級リ匠苑

業界団体

岩手県漆器協同組合
〒029-0523 岩手県一関市大東町摺沢字但馬崎10
Tel. 0191-75-3153

昭和49年設立

出荷額

約2億円(浄法寺塗を含む)

その他

*昭和60年に経済産業大臣により、「伝統的工芸品」に指定されている。
*経済産業省が認定する「伝統工芸士」は11名(浄法寺塗を含む)。