【宮城県】■宮城伝統こけし みやぎでんとうこけし

宮城伝統こけしとは?

「鳴子」「遠刈田」「弥治郎」「作並」「肘折」の5つの系統を有し、各々独自の形やつくり、顔の表情、胴模様を持つ、ろくろ挽きによるみちのくの木製人形玩具。主な産地は、宮城県仙台市、白石市、蔵王町(遠刈田)、七ヶ宿町、川崎町、松島町、大崎市(鳴子)。


商品・技術の特徴

厳しくも豊かな風土を持つ東北の山村で生まれ、親から子へ、師匠から弟子へと、何代にもわたり技法や形式が継承されてきた宮城伝統こけしは、各地域の風土に合ったものが作り出され、その土地ごとに共通の形やつくり、顔の表情、胴模様がある個性豊かなこけしとして定着してきた。それぞれの土地独自の特徴を持つこけしの一群は「系統」と呼ばれ、宮城県内には「鳴子」「遠刈田」「弥治郎」「作並」の4つの本流に「肘折」を加えた5つもの系統が存在することから、昔から同県は「こけし王国」とも呼ばれる。

「鳴子」(写真中央)は東北有数の温泉郷である鳴子を中心に発展した系統であり、「こけしといえば鳴子」と言われるほど、その名が広く知れ渡っている。首頭部を胴部にはめ込む技法を用い、頭部を回すと「キイキイ」と鳴ることで有名。どっしりと安定感のある形状も特徴。横から見た菊を重ねて描いた「重ね菊」と、正面から見た大輪の菊を胴の下部に描く「菱菊」が代表的な模様である。頭部は華やかな飾りとともに優しい表情が描かれている。

「遠刈田」(右から2番目)は、宮城県蔵王町の遠刈田新地を中心に発展した系統で、鳴子に次いで製作が盛ん。頭部が差しこみ式で比較的大きく、胴部は細めであり、手描きの花模様が主に施されている。頭頂と額からびんにかけて赤い放射線状の模様が描かれているのが特徴。三日月型の切れ長の目や微笑を浮かべた優しい表情も魅力である。

「弥治郎」(一番右)は、白石市の鎌先温泉から歩いて20分ほどの場所にある弥治郎という集落を中心に製作されている系統。古来、春先から秋まで農耕に励み、晩秋から春までこけしづくりに勤しむ半農半工の暮らしを続けている。遠刈田から分化したといわれ、頭部は胴に比べて大きく、太いろくろ線の組み合わせなどの模様が主流。頭部にもろくろによる二重、三重の輪が描かれていることも特徴的だ。

「作並」(左から2番目)は、都市部である仙台で発達したという珍しい背景を持つ。胴にはろくろ線を挟んで菊を図案化した個性的な模様が描かれている。遠刈田こけしの影響を強く受けたと考えられ、古風で素朴な雰囲気を醸し出している。

「肘折」(一番左)は山形県大蔵村肘折温泉で発達した系統であり、鳴子系に遠刈田系が加味され、一瞥して肘折こけしとわかる独特の個性を生み出している。帯状のろくろ線と菊を図案化した立ち菊などが描かれ、インパクトのある顔の表情が最大の特徴である。

歴史的背景

約1300年前の称徳天皇の頃(718〜770年)、仏教の呪文である陀羅尼経(だらにきょう)を納める入れ物(小塔)が百万個作られ、「百万塔」とも呼ばれたこの小塔が、木地師が彫った最古のこけしともいわれている。

現代につながるこけしが誕生した時期は定かではないが、19世紀の初め(江戸時代の文化文政の頃)と考えられている。当時の農村では冬に長期間の労働の疲れを癒すために近場の温泉地に湯治に行く習慣があった。その湯治場近くに住む木地師らが木材から男の子には独楽を、女の子にはこけしを作り、湯治客に土産物として売るようになったのが現代的なこけしの起源とされている。

明治の中頃になると、湯治場も繁盛し、こけしの人気も高まった。それとともに形や模様もより精巧になり、こけしは子供の玩具にとどまらず、大人向けの趣味や鑑賞用の工芸品としても認知され、発展していった。

宮城県内では、鳴子温泉で古来漆器類などの木地業が盛んで、近年発見された古文書から、文久2年(1862年)には「こふけし」があったことが知られ、江戸末期にはこけし作りが始まっていたと推察される。その後、素朴な雰囲気の古鳴子時代(明治〜大正前期)、胴の黄色い描彩が特徴的な黄鳴子時代(大正中期〜戦前)を経て、現在の優しくも華やかな表情を持つ鳴子こけしに至っている。また、歴史的には遠刈田新地の木地師らが一番早くこけしを作り出したともいわれ、古来遠刈田は名人級の工人を数多く世に送り出してきている。

認定要件(※伝統的工芸品認定に伴う「告知」より)

【技術・技法について】

1.乾燥は、自然乾燥によること。

2.木地造りは、次のいずれかによること。
(1)鳴子こけしにあっては、次の技術又は技法によること。
 イ)荒挽きは、横ろくろ及びろくろがんなを用いること。
 ロ)木地仕上げは、横ろくろ及び仕上げかんなを用いて仕上げ削りをした後、みがき仕上げをすること。
 ハ)頭部は、「瓜実型」とすること。
 ニ)胴部は、上部に段のついた「内反胴」とすること。

(2)遠刈田こけしにあっては、次の技術又は技法によること。
 イ)荒挽きは、縦ろくろ及びろくろがんなを用いること。
 ロ)木地仕上げは、縦ろくろ及び仕上げかんなを用いて仕上げ削りをした後、みがき仕上げをすること。
 ハ)頭部は、「瓜実型」又は「下張型」とすること。
 ニ)胴部は、なで肩の直胴とすること。

(3)弥治郎こけしにあっては、次の技術又は技法によること。
 イ)荒挽きは、縦ろくろ及びろくろがんなを用いること。
 ロ)木地仕上げは、縦ろくろ及び仕上げかんなを用いて仕上げ削りをした後、みがき仕上げをすること。
 ハ)頭部は、「瓜実型」、「福助型」、「下張型」、「丸型」又は「結髪型」とすること。
 ニ)胴部は、なで肩の直胴若しくは中くびれ胴又は上部に段のついた直胴若しくは中くびれ胴とすること。

(4)作並こけしにあっては、次の技術又は技法によること。
 イ)荒挽きは、縦ろくろ及びろくろがんなを用いること。
 ロ)木地仕上げは、縦ろくろ及び仕上げかんなを用いて仕上げ削りをした後、みがき仕上げをすること。
 ハ)頭部は、「福助型」、「瓜実型」又は「丸型」とすること。
 ニ)胴部は、なで肩の裾締め直胴又は上部に段のついた裾締め直胴若しくは下くびれ胴とすること。

(5)肘折こけしにあっては、次の技術又は技法によること。
 イ)荒挽きは、ろくろ及びろくろがんなを用いること。
 ロ)木地仕上げは、ろくろ及び仕上げかんなを用いて仕上げ削りをした後、みがき仕上げをすること。
 ハ)頭部は、「福助型」又は「下張型」とすること。
 ニ)胴部は、なで肩の直胴若しくは裾広がり直胴又は上部に段のついた直胴若しくは裾広がり直胴とすること。

3.頭部と胴部の組み付けをする場合は、次の技術又は技法によること。
(1)鳴子こけしにあっては、「はめ込み」によること。
(2)遠刈田こけし、弥治郎こけし、作並こけし及び肘折こけしにあっては、「さし込み」又は「はめ込み」によること

4.描彩は、次のいずれかを手描きすること。
(1)鳴子こけしにあっては、頭部に「水引き手及び髪」又は「髷」及び「面相描き」を、胴部に「菊」、
 「楓」、「牡丹」、「あやめ」、「撫子」又は「桔梗」及び「ろくろ模様」を描彩すること。
(2)遠刈田こけしにあっては、頭部に「放射状の手絡(髷に巻き付け飾る布)、振れ手絡及び髪」又は
 「オカッパ」及び「面相描き」を、胴部に「菊」、「梅」、「衿」、「木目」、「いげた」、「あやめ」、
 「牡丹」、「桜」又は「ろくろ模様」を描彩すること。
(3)弥治郎こけしにあっては、頭部に「ろくろ模様」、「髪模様」又は「髷模様」及び「面相描き」を、
 胴部に「ろくろ模様」、「菊」、「枝梅」、「桜」、「衿」、「牡丹」、「蝶」、「松葉」、「裾」、
 「あやめ」又は「結びひも」を描彩すること。
(4)作並こけしにあっては、頭部に「水引き状の手絡及び向う結び髪」、「放射状の手絡及び髪」又は
 「オカッパ」及び「面相描き」を、胴部に「菊」及び「ろくろ模様」又は「牡丹」及び「ろくろ模様」
 のいずれかを描彩すること。
(5)肘折こけしにあっては、頭部に「リボン状の手絡及び髪」、「放射状の手絡及び髪」又は「オカッパ」
 及び「面相描き」を、胴部に「菊」及び「ろくろ模様」を描彩すること。
5.仕上げは、ろうみがき仕上げをすること。


【原材料について】
1.木地は、ミズキ若しくはイタヤカエデ又はこれらと同等の材質を有する用材とすること。
2.描彩は、墨又は染料ですること。
3.ろうは、モクロウ若しくはハクロウ又はこれらと同等の材質を有するものとすること。

事業者数:62社

従業員数:約86名

主な事業者

木地屋新山こけし工房
こけしの菅原屋

老舗高亀

業界団体

宮城伝統こけし連合会
〒989-6827 宮城県大崎市鳴子温泉字尿前74-2
Tel. 0229-83-3600

遠刈田伝統こけし木地玩具業協同組合
宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉字新地西裏山36-135
Tel. 0224-34-2385
昭和55年設立


鳴子木地玩具協同組合
〒989-6827  宮城県大崎市鳴子温泉字尿前74-2
Tel. 0229-83-3600
昭和26年設立


弥治郎こけし業協同組合
〒989-0733 宮城県白石市福岡八宮弥治郎北72-1
Tel. 0224-26-3993
昭和56年設立


仙台地区伝統こけし工人組合
〒989-3212 宮城県仙台市青葉区芋沢字大竹新田下30
Tel. 022-394-3005

出荷額

約2億3千万円(うち伝統的工芸品約1億円)

その他

*昭和56年に経済産業大臣により、「伝統的工芸品」に指定されている。

*経済産業省が認定する「伝統工芸士」は21名。