【福島県】■大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)

大堀相馬焼とは?

青みがかかった色や器全体に入る細かなひび、独特の二重構造、走り駒の絵など他に見られない特徴を持つ福島県浪花町特産の陶器。


商品・技術の特徴

大堀相馬焼の最大の特徴は器全体に広がる「青ひび」である。素材と釉薬(粘土等を成型した器の表面をガラス質にするためにかける薬品)の収縮率の差異から、焼いた時に陶器の表面に繊細な音を伴いながら細かい亀裂が入る。これを「貫入」(かんにゅう)と呼び、その音を「貫入音」という。静寂の窯場では甲高い貫入音が鳴り響き、貫入により葉脈のような青ひびの地模様が全体に入り、大堀相馬焼独特の青磁の美しさを醸し出すのである。

青ひびの優しくも凛とした色合いは青磁釉(植物灰が主原料で鉄分を含有する釉薬)により作り出される。主原料の砥山石は大堀焼の産地でのみ産出される。

また、狩野派の筆法といわれ、相馬藩の御神馬を練達の筆致で描く「走り駒」の絵も特徴の一つ。さらに、「二重焼」(ふたえやき)と呼ばれる構造も大堀相馬焼ならではのものである。例えば茶器であれば二重構造により入れた湯が冷めにくく、また熱い湯を入れても手に持つことができる。

大堀相馬焼は茶器や酒器、花器など日用品のみならず、美術工芸品なども作られている。ほとんどが青ひびの中に勇壮に走る馬を描いたものだが、その他に灰釉(木々や藁の灰が原料の釉薬)やあめ釉(木や藁の灰に鉄分を混ぜた釉薬)、白流釉(焼いた籾殻に木灰などを加えた釉薬)を使った作品もある。

基本的な製法は浪江町美森から産出する陶土をろくろなどを使って成形し、陰干しをして乾燥させた後に窯焼きする。窯焼き後は独特の走り駒の絵を描き、釉薬を塗って本焼きすれば完成となる。

歴史的背景

約300年前、浪江町大堀(旧大堀村)一円で生産され始めたもので、当時の相馬藩士である半谷休閑の下僕の佐馬という人物が相馬中村で製陶法を確立し、元禄3年(1690年)頃に開窯したとされている。その技法は徐々に周辺に伝播され、陶技を修得した土地の農民や職人の手により、村をあげて徳利や土瓶などの日用品が製造された。

相馬藩はこれを藩の特産物とするために、元禄10年(1697年)に「瀬戸物師他領地へ出ることべからず」という布令を出し、他藩への技術流出を防ぎ、さらに享保18年(1733年)には下り瀬戸物の商売を禁止する「商売掟」を布令し、藩による瀬戸物の買い入れ、独占販売を手掛けるようになった。

また、「瀬戸役所」を設置し保護育成にも乗り出す。江戸末期には窯元は100戸以上を数え、江戸と函館には販売所も開かれ、販路は北海道から関東、関西にまで拡大。良質の胎土を用いた薄手の椀や小鉢は大消費地である江戸でも京焼や信楽焼と競うほどの人気となり、浪江町大堀は東北地方最大の窯業地となったのである。

しかし、明治の世になるとそれまでの藩の援助が途絶えたために急速に衰退。鮫肌を特徴とした「鮫焼土瓶」が開発され、米国に大量に輸出されるなど一時息を吹き返したものの、その後も退潮は続き、今では窯元は25軒にまで減ってしまっている。

なお、大堀相馬焼と混同されやすい「相馬駒焼」は、相馬藩の御留窯で幕府や大名への贈答品、藩主が使う茶陶として作られてきたもの。ひび焼や走り駒の絵など大堀相馬焼と似た特徴を持つ。現在は相馬市中村で焼かれる陶器を相馬駒焼、浪江町大堀で焼かれる陶器を大堀相馬焼と呼び区別している。

認定要件(※伝統的工芸品認定に伴う「告知」より)

【技術・技法について】
1.成形は、ろくろ成形、押形成形又は手ひねり成形によること。
2.素地の模様付けをする場合には、「鋲止め」(縄や龍の細工物を巻き付けるように飾り付ける手法)、
 「泥塗り」、「海面」、「菊押し」、「花ぬき」、「二重」、櫛目、イッチン盛り(絞り出し道具で
 模様を盛り上げて描く技法)、面とり、「さるぽ塗り」、はり付け、飛びかんな(かんなを軽く当てて
 刻み模様を作る手法)、布目又ははけ目によること。
3.釉掛けは、浸し掛け、流し掛け又は塗り掛けによること。この場合において、釉薬は、「青磁釉」、
 「白流釉」、「灰釉」又は「あめ釉」とすること。
4.絵付けをする場合には、手描きによること。


【原材料について】
1.使用する陶土は、大堀粘土、鹿島粘土又はこれらと同等の材質を有するものとすること。
2.青磁釉に使用する陶石は、砥山石又はこれと同等の材質を有するものとすること。

事業者数:23社

従業員数:70名

主な事業者

元祖 休閑窯 半谷陶器店
松永窯
大堀相馬焼窯元 春山窯
幸山窯
栖鳳窯(山田守男陶器店)
近景窯(近藤景二商店)

業界団体

大堀相馬焼協同組合
〒979-1544 福島県双葉郡浪江町大堀字大堀37
Tel. 0240-35-4917

昭和46年設立

出荷額

約3億円4千万円

その他

*昭和53年に経済産業大臣により、「伝統的工芸品」に指定されている。
*経済産業省が認定する「伝統工芸士」は3名。
*現代的な感覚を取り入れた窯元独自のデザインによる作品づくりを進める若い世代も台頭してきている。

*東日本大震災からの復興支援事業として「UMA Project」が企画され、2013年12月中旬から10種類の大堀相馬焼ダブルカップ(二重焼)で構成する「KACHI-UMA」シリーズが販売されている。デザインは新進気鋭の若手アーティスト10名が担当。