コラム / 注目!地域ブランド | 2014年8月23日 土曜日

赤ちゃん連れプランで稼働率80%以上~ 日当山温泉You湯(鹿児島県霧島市)

いま、温泉地や観光地の旅館が厳しい状況だ。特に、部屋数の少ない小規模旅館は、月平均稼働率が20%を下回るところも少なくない。ところが、客室数14室の日当山温泉にある「You湯」は女性の気持ちを徹底的に考えた新プラン「赤ちゃん大満足プラン」を導入してから、20代、30代のお客様が急増し、月間平均稼働率80%以上、旅行サイトでの顧客満足度上位という人気を誇っている。

霧島温泉郷の南端の霧島市街地に位置する日当山(ひなたやま)温泉は、鹿児島県内最古の温泉で昔ながらの共同浴場が多い。西郷隆盛が頻繁に訪れた温泉として知られている。 ところが、住宅地として発展し続けたため、いまでは温泉は住宅地内に散在している家族湯が中心。湯煙がもうもうと立ちのぼり、山間に大規模な温泉旅館・ホテルが建つ「霧島温泉郷」としてのイメージとは遠い。

その日当山温泉にある「霧島温泉 スパホテル You湯」(現在は「優湯庵」に改名)は、宿は決して眺望に恵まれているとはいえず、高級な佇まいでもない。無色透明、無味無臭のお湯は、温泉宿として経営していくには、決して有利な条件ではない。そんな温泉だからできることは何かを徹底的に考えた。

◆マイナス条件を“魅力”に転換

無色透明、無味無臭で、肌にとても優しい弱酸性の源泉100%掛け流しの当宿には、以前から赤ちゃん連れや妊婦さんのお客様が多かった。そこに目をつけたのが自らも子どもを持つ支配人。「優しい」泉質を活かし、赤ちゃんや妊婦さんにも安心して泊まっていただけるプランの開発を思いついた。

近くには、地元のみならず鹿児島県内外の妊婦さんが安産祈願に訪れる「石體(せきたい)神社」があることも、大きな付加価値をつけてくれた。住宅地にある温泉というロケーションは「隼人温泉病院まで徒歩1分。総合病院や子供クリニックまで車で5分。産婦人科まで車で10分とすべての病院がある」ことを強みとして打ち出した。こうして2008年7月に「赤ちゃん大満足プラン」が生まれた。

さらに、自らの経験を生かしてサービスそのものにも徹底的にこだわった。赤ちゃん連れの旅行は、着替えをはじめ、オムツ、ミルク、おもちゃなどが多く、大きな荷物になってしまう。しかし、宿にそれらを準備しておけば、少ない荷物で存分に楽しめる。

そこで、予約の際に月齢はもちろん、使っているミルクの銘柄、オムツの種類、メーカー、サイズに至るまでしっかり好みを聞き、万全の準備を行った。つまり、単にオムツやミルクをそろえるのではなく、嗜好や慣れに合わせて、本当に安心して過ごせるようにという配慮だ。

これらの銘柄のオムツやミルクなどを、単に備品として置いておくのではなく、「プレゼント」のように演出しておく。赤ちゃんを心から歓迎するという気持ちの表れだ。

部屋にはベビー布団をはじめ、ベビーチェア、月齢や年齢に合わせたおもちゃをたくさん用意した。さらに、家具は赤ちゃんを抱いた状態でも使いやすく、赤ちゃんにも安全なものにし、オムツ用のダストボックスを各部屋に完備した。
温泉は到着時の夕方に、貸切風呂が1時間使える。親子水入らずの温泉には、これまた赤ちゃんが喜びそうなグッズをたくさん用意した。

このプランをきっかけに旅館のホームページをリニューアルし、トップページには赤ちゃんの写真を載せ、大々的にアピールした。その甲斐があって、当初から問い合わせや予約が相次ぐようになった。

妊婦さん向けプランも大人気に

次に考えたのは、出産を控えている女性(プレママ)向けのプラン。赤ちゃん連れのお客様には和室の人気が高く、和洋室がどうしても残ってしまうのが悩みでもあった。そこで思い切って2部屋あった和洋室をリビング風に改造し、「マタニティプラン」として打ち出した。

お腹が大きくなると寝起きはベッドの方が楽になるが、畳の上でのんびり足を伸ばしたくもなる。リクライニングソファーは足も伸ばせるタイプにし、自宅にいるような気持ちでくつろいでもらえるよう雑誌も置くようにした。テレビや冷蔵庫の配置にも工夫して、本当にくつろいでもらえる空間にした。

プレママには、浴衣の代わりに「マタニティパジャマ」を用意。こちらは宿泊の記念にプレゼントしている。このパジャマを着て、夕食も朝食も部屋で食べることができるが、妊婦さんは味覚に敏感になっているため、素材や味付けなどできる限り個別に配慮している。また、人目を気にせず温泉を楽しむことができるように、赤ちゃんプランと同様に、夜は貸切風呂を無料で1時間ゆっくりと利用できるようにした。

妊娠中は夫婦もストレスが溜まるにちがいない。赤ちゃんが生まれたらしばらくはゆっくりと旅行にもいけないかもしれない。だから、せめて安定期に入ったら夫婦2人でゆっくりと時間を過ごしてもらいたい、という支配人の思いが詰まっている。

赤ちゃんを連れたパパとママもゆっくり温泉旅行を楽しみたい。安定期に入ったプレママにゆっくり温泉旅行をプレゼントしたい。そんな願いを叶えてくれる赤ちゃんプランや妊婦さんプラン。1泊2食付で1万5000円前後の料金だが、とても人気が高い。また旅行サイトでのクチコミの評価はどれも満点に近く、人気ランキングは常に上位に名を連ねている。

旅館にとってはマイナスとも言える状況を、逆に武器として新たな打ち出し方をした。そして、お客の視点に立って、徹底したサービスを提供し続けたからだ。

いま日本中で観光はとても厳しい状況にある。特に設備的に見劣りし、大きな設備投資ができない中小規模の旅館は、なかなか新たな戦略を打ち出しにくい状況にある。 しかし、このケースのように、自分たちの旅館の魅力を見つめなおし、お客様中心でコンセプトやサービスを見直すことができれば、飛躍できる可能性はいくらでもあるのではないだろうか。

(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)

※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2011年10月号に掲載されたものです。

 



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