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■地域ブランド構築法

第5回:ブランドを高める 〜 どうすれば購入してもらえるのか?

さて今回からは3回にわたり、「ブランドを高める」ことについて「継続購入」をキーワードにお話していきたいと思います。

「自社の商品を全国レベルの有名なブランドにしたいんですが、どうすればいいんですか?」

関西地方で、ある豆加工品を作っているAさんから、このような質問を受けました。Aさんはもう何十年も前の父の代からその商品を作っているそうで、その地域のお土産や地方産品としては有名です。

「いい商品だから、たくさんの人に食べてもらいたい」とAさんは言います。Aさんの豆加工品はどのようにしたら全国ブランドになれるのでしょうか。

JAS法の改正や、地域名称保護に関する法律の新設などによって、今、全国各地で「地域ブランド」を構築・管理しようという動きが非常に活発になってきています。もちろんその背景として、「関サバ」や「松阪牛」など地域ブランドで大成功したケースもたくさんあり、各地でそういったものを目指したいという気運も高まっています。Aさんもそう考えたのに違いありません。

(1)なぜ「継続して購入しないか」を探る

さて、Aさんはこれまでにも何度か見本市に出展したり、県外の百貨店やスーパーのバイヤーに取り扱ってもらったことはあったとのことです。しかし、評判は悪くはないのに、なかなか恒常的な取引にはつながらなかったようです。「理由はわかりません」とAさんは首を傾げます。

こうした場合で一番重要なのは、なぜ「継続して購入しないか」という理由を探ることです。

継続購入する人のことをロイヤル・ユーザーと呼びます。ある人にロイヤル・ユーザーになってもらうためには、まずその商品のことを認知した後で、興味を持ってもらうことが必要です。そうして購入の有無(実際に買うか買わないか)を検討した上で納得すれば購入に結びつきます。さらに、実際に購入して食べてみて満足すれば継続購入となり、売り手はロイヤル・ユーザーを一人獲得することになるわけです。

この流れを、ランナーがハードルを飛び越えて行く様に置き換えて想像してみてください。

認知した人が「興味を持つ」ためのハードル(阻害要因)があり、次に興味を持った人が「購入を検討する」に至るハードルが続き、そこから「実際に購入する」までにも大きなハードルがあり……というように、いくつものハードルが存在しているのです。

これらのハードルの中で、どのハードルが最も飛び越えにくいハードルになっているかを調べ、それを容易にするための「改善」ができれば、やがて全国で取り扱われることにつながるはずです。

さて、Aさんの商品はどこに問題があるのでしょうか。思うように売れないのであれば、それはどこかに障害となっている大きなハードルがあるはずなのです。そのハードルは告知方法や流通などの問題点であるケースもありますが、実は商品そのものの問題が飛び越えにくいハードルになっている場合が大半です。

ここまでお話ししたとき、Aさんから反論がありました。「私どもでは、商品にアンケート用紙を入れていますが皆さん『美味しい』と答えていただいています。商品に自信はあるのです」と。

(2)顧客アンケートでは何もわからない

Aさんに限らず、「お客様アンケート」を実施して、その結果が良かったことに満足している方が少なくありません。しかし、意外に思われるかも知れませんが、このようなアンケートでは何もわかりません。

というのは、お客様アンケートというのは「購入した人」を対象としているからです。

前回お話ししたハードルにあてはめて考えてみましょう。実は、「購入する」に至るまでに非常にたくさんのハードルが存在しています。そして、「購入する」までのハードルのうち、どれが飛び越えにくかったのか、どのように飛び越えにくかったのかは、すべてを飛び越えることができた人に聞いてもわからないのです。

しかも、「お客様アンケート」に答えてくれる人は、往々にしてその商品に満足している人です。ですから、たとえば味について聞けば、7割から8割の人が「おいしい」と答えるのが当たり前なのです。お客様アンケートというのは、そういうものです。

今、調べなくてはならないのは、その商品を認知した人が、その後「なぜ興味を持たなかったのか」であり、興味を持った人が「なぜ、購買を検討しなかったのか」であり、購買を検討した人が「どうして購入しなかったのか」であり、購入した人が「どうして再購入しなかったのか=どうして一度しか購入しないのか」という点なのです。


(3)「購入」の要因は味ではない

「食べてみれば満足してくれるはず」とAさんは言いますが、これは間違いです。日本人全員が「好き」である食品なんてありません。甘いものが嫌いな人もいれば、アルコールが苦手な人もいます。土地によっても、個人によっても嗜好は違っているのです。Aさんが自慢する味であってもそれが全国で売れるとは限りません。


 

また、購入の障害となる要因は、「味」以外にもたくさん考えられます。パッケージのデザイン、商品名(ネーミング)、キャッチフレーズ、色、大きさ、そして価格です。しかも「味」というのは買って初めて判断できますが、それ以外の要因は「購入する」というプロセスに直接働きかけます。それゆえに、「購入する」に至るハードルとして可能性が高いのは、味以外の要因であることが多いのです。

関西出身の友人が、初めて関東風の真っ黒なそばを食べたときに、「意外と美味しいじゃん」と語っていました。黒い汁から、すごくしょうゆ臭くて濃い味だと勘違いしていたんですね。彼の場合は商品の「色」というのが大きなハードルになっていたのです。

ネーミングも重要です。名前にも個性がありますが、その個性が商品のイメージと合っていなければ「阻害要因」になってしまうこともあります。「伝統の味」を伝えたいのに英単語では伝わりません。だじゃれネームでは、品質の良さは伝わりません。

名前で伝わらなければキャッチフレーズで伝えなくてはなりません。「××の豆といえば、その品質の良さは伝わるはず」とAさんは言いますが、「地域ブランド」は地元の人には知られていても、県の外に出てしまえば全く無名ということも多々あります。その豆の名前は知っていても、本当にその豆の特徴がどこまで伝わっているかはわかりません。

しかも、原材料である豆自体は有名であってもその豆を加工した商品自体は、その豆のブランドを二次利用しているに過ぎません。つまり、Aさんの商品の本当の良さを伝えていることにはなっていないのです。

材料や地名の知名度にぶら下がっただけの商品のことを「地域ブランド品」と言うのではありません。その材料や加工技術の高さが商品に生かされ、それが消費者に「他にはない魅力」として伝わってこそ、地域ブランドとして認められるのです。

                            ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄
                            初出:「農業経営者」2004年12月号(農業技術通信社)

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