■地域ブランド構築法
第3回: ブランドを守る (ブランド管理)
前回は「ブランドを作る」(ブランド構築)について説明をしましたが、今回は「ブランドを守る」(ブランド管理)についてお話しします。「ブランド管理」に必要なのは、(1)消費者の期待を裏切らない、(2)ブランドを浪費しない、(3)ブランドを腐らせない、という3つの約束です。
(1)消費者の期待を裏切らない
製品の故障情報の隠ぺいや、個人情報の漏洩など、企業の不祥事が明らかになって、その企業のブランドイメージが大幅に低下する事件が相次いでいます。
ブランドのイメージが大幅にダウンする原因の多くは、消費者の期待を裏切ってしまったことにあります。たとえば自動車は安全でなくてはならないのに、その「安全」という期待を裏切ってしまえば、その車のブランドは失墜してしまいます。
食品の場合も「安全」というのが大切であり、食品のブランドの多くは「安全」であることが第一条件であるにもかかわらず、食中毒を引き起こしたり、表示に偽りがあったりしたのでは、消費者の「信頼」を裏切ることになってしまいます。
最近は、長野・白骨温泉でお湯に色を付けるために入浴剤を使用していたことが判明したという事件がありました。同温泉は顧客の信頼を裏切ったことで、客離れを起こしてしまいました。
ところで、温泉法第二条によると「温泉」と表示するにはお湯に溶存物質 (ガス性のものを除く)が合計1000mg以上含まれているか、21種類の特定成分のうちいずれかが一定以上含まれている必要があります。あるいは温泉源での採取温度が摂氏25度以上あれば、この含有成分が前述に満たされていなくても「温泉」と認められます。
白骨温泉の場合、水が白濁していなくても温泉法上の「温泉」であったことは確かで、犯罪を犯したわけではありません。しかし、「白濁」というイメージを重視するあまりに、「入浴剤を混ぜる」と言う過ちを犯して、消費者からの「信頼」を捨ててしまったことになります。
その後、全国の温泉街で自主調査が開始されましが、その結果、伊香保温泉、水上温泉、石和温泉、芦原温泉などで温泉の表示を違法に行っていたり、地下水や井戸水を沸かして使用していたりしていたことが相次いで判明しました。これらは明らかに違法行為なのです。
同様の事件が、かつて地方産品でも起きた事があります。
国内のあるワインの産地では数年前に「地元ぶどうによる国産ワイン」を売り文句として売り出して大人気となりました。ところがその地域のお土産として人気が急上昇。百貨店での地産品コーナーや、通信販売などでも人気が高まってしまい、原料が不足するという事態となりました。
そこで、急きょ海外からワインの原料となるぶどうを輸入し、それを加工して乗り切ることにしました。表示上は当時は輸入した原料を使っても日本で加工すれば「国産ワイン」と表示してもよかったので、「国産ワイン」のままで出荷したのです。
ところが、その実態が明らかになると同時に、そのワインの人気は急落してしまったのです。
目の前にある注文(需要)に応えることは重要です。そして原料を輸入しても品質が保てると判断して、この方法を選んだのです。しかし、消費者はそうは思いませんでした。そのワインに求めていたのは、品質が高いとしても輸入した原料を元に製造したワインではなく、地元のぶどうで作ったワインだったのです。
このように、法律を破らなければ、犯罪でなければ消費者の信頼を裏切らないというわけではありません。たとえ正しいことを行っていても、それが消費者の期待を裏切ってしまうのであれば、それはブランドの低下につながってしまうことを肝に銘じる必要があります。
(2)ブランドを浪費しない
前回の記事で、「ブランド力を高めるような新製品を開発することが『ブランドを構築する』という作業だ」ということを書きましたが、逆に、やみくもに新製品を開発していると、それは「ブランド力を弱める」ということ、すなわち「ブランドを浪費する」になってしまうことがあります。
たとえば「AAオレンジ」というブランドのジュースがあったとします。そのジュースはとても濃厚で味わいが深くて人気商品になっていたとします。その会社は業務拡大のためにリンゴジュースを出すことにしました。そこで人気商品にあやかって、新製品の名前を「AAリンゴ」としました。「AA」というブランドを使って新製品を売り出せば、「BBリンゴ」という名前より売れる可能性が高いからです。
このように、強いブランドを持っていると、そのブランド力を使って新製品の販売などを優位に展開することが可能になります。こうした戦略のことを「ブランド拡張」といいます。
ところが、このリンゴジュースの味が「AAオレンジ」と同じくらい、あるいはそれ以上に品質がよければ問題ありませんが、あまり品質が良くなかったらどうなるでしょうか?
あるいはたとえ「AAリンゴ」の品質が良くても、「AAオレンジ」の味とは違ってスッキリとした味わいだったとします。すると、「AA」というブランドの特徴であった「濃厚で味わい深い」というブランドイメージは薄れてしまいます。
このように、質が低い、あるいは特徴の違う商品にそのブランド名が使われることで、そのブランドの評価が下がってしまうことがあるのです。このような状態を「ブランドを浪費した」といいます。
ブランドを浪費しないためには、そのブランド名が付く商品のコンセプトや品質をしっかりと管理し、ブランドのイメージが「拡散」しないように気をつけることが重要なのです。
(3)ブランドを腐らせない売れている商品は、その品質を保ち続けることが重要です。しかし、品質や特性を全く変えずにいたほうがいいかというと、”NO“です。なぜなら、消費者の嗜好はどんどん変わってしまいます。変わらないでいる「保守的」なブランドは、時間とともに衰退してしまいかねません。
日本で最も売れているビール、「アサヒスーパードライ」でさえ、実はこれまでに何度か味を変えています。もちろん消費者の嗜好の変化に合わせて、飽きられないように工夫を重ねています。このように、常に消費者からの評価を高めるのが「ブランドを腐らせない」ために必要な作業なのです。
ブランドが腐ってしまうもう一つの要因としては、他社が類似の商品を出してきて、ブランド自体が陳腐化してしまうことです。まねをされてしまえば、本来得られるはずの利益が得られなくなってしまうばかりではなく、類似商品のためにブランドイメージを下げてしまうこともありえます。
そこで、類似商品が出ないようにブランドを商標権などによって「守る」ことが重要になってきます。
「越前がに」は、福井県沖で水揚げされるオスのズワイガニですが、この基準に合わないズワイガニが勝手に「越前がに」の商標で売られないように、本物の「越前がに」には黄色のタグを付けています。これはまさに、「類似商品によってブランドが腐らないようにする」ための方法ということができます。
このように、ブランドの価値を下げないようにするには、「消費者の期待を裏切らない」「ブランドを浪費しない」、そしてブランドを腐らせない」ということについてもっと真剣に取り組むことが必要なのです。
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄
初出:「農業経営者」2004年10月号(農業技術通信社)