■地域ブランド構築法
第8回:農産物のブランドプレミアムを作る
「ブランド戦略」と言いますが、この「戦略」を部分を言い換えるならば、「消費者からの評価をいかに高めるか」ということになります。
つまり、ブランド戦略において最も重要なのは、消費者の評価を高めるために、農作物などにどのような付加価値(ブランドプレミアム)を付けるか、ということになります。
もし、この付加価値がなければ、あるブランドが、仮にある時メディアに取り上げられるなどして注目されても、賢い消費者はすぐにその本質を見破ってしまい、わずかな期間で飽き、すぐに離れて行ってしまいます。これでは生産者や地域など、そのブランドを持つ事業体等(ブランド・ホルダー)に継続的な利益をもたらすことにはなりません。
特に、食品は他の商品クラスとは違い、購買から消費を終わるまでの時間が短いのが特徴です。消費者は食品を手に取り、それを食べてみて、自分の舌で善し悪しの評価を下しますが、その時にはもうその商品は目の前から消えています。衣料、家電、自動車などと違い、評価はほとんど一瞬で決まってしまうのです。
ですから、農産物のブランド作りは、他の分野の商品以上に明確な付加価値がなければならないのです。
そこで今回は「いかにして農産物のブランドプレミアムを作るか」について、その効果的な手法の中から4つを紹介します。
(1)作り手の視点ではなく消費者の視点で考える
農産物に限らず、商品というのはややもすると作り手側の立場で作られる場合が多いようです。
生産者が一番気にするのは生産量と売り上げ。昔から豊作が何より望まれ、それを祈願して祭りやお祈りがあるくらいです。
しかし、現代日本においては豊作は必ずしも良いことではないというのは、みなさんがよくご存知のことです。供給が増えても、もはや需要は拡大しないからです。需要が増えなければ、流通する商品量が増えると価格は暴落してしまいます。
逆に単価を上げるためには、消費者が「買いたい」と思うニーズを高めることが必要です。「いかにたくさん収穫するか」ではなく、いかに「買いたいと思われるような作物を作るか」に視点を変える。これがブランド戦略の基本の第一歩なのです。
(2)その商品ならではの付加価値・優位性を明確にする
「買いたい」と思われるためには、もちろん食品として良いものであることは重要です。色、形、大きさ、味が良いもの。消費者がその作物を「買いたい」という気持ちを高めるのは、おおむねこれらが良好なものでしょう。
しかし、単にスペックとして品質が良いだけでは、消費者は、その商品を特別なものとはなかなか認識してくれません。農作物が「ブランド」になるには、こうした「特別の認識」というのが必要なのです。
つまり、その作物が他のものと比べてどの点がどのように優れているのかを、端的に表すことです。
(3)特徴や魅力をシンプルに表現するただし消費者は一度にたくさんの情報を処理することはできません。
ブランドのイメージに関する調査結果によると、多くの消費者に有力ブランドを自由な言葉で表現してもらった場合、半数くらいの消費者が、同じブランドについては同じ言葉を連想して記述します。そしてその半数くらいの人(つまり1/4)は別の言葉を連想します。さらにその半数程度の人(1/8)は別の言葉を連想します。
この現象は、ほとんどすべての商品クラスに当てはまります。だから「あれもこれも優れている」ではなくて、一言で「××が特徴」と言い切れることが重要なのです。
たとえば、「香りがよい」「味がよい」「美しい」「食べやすい」「珍しい」など、様々な言葉がまんべんなく出て来るような商品は、特別なものと思ってはもらえません。「香りがよい」なら半数の人がそれを第一に答えるような商品がよいのです。
もちろん、その最多の言葉は他の商品にはないユニークなものであれば、その効果がさらに大きくなるのは言うまでもありません。
ちなみに、味、形、大きさなど以外に、消費者の注目度が高まっているものがあります。それは「環境」と「健康」への配慮です。この傾向は今後ますます強まるでしょう。
購入する作物がどこで、誰によって、そしてどのような環境で育てられたかがわかるようにするトレーサビリティ(追跡可能性)への取り組みも、こうした付加価値の一つと考えることができます。
(4)手に入らないもの・あえて手間をかけて作るものいくらニーズが高まったとしても、商品がどんどん供給されるようでは付加価値のありがたみは目減りしてしまいます。人気が高まったときに、それに生産を間に合わせようとすると人気はすぐに低下してしまいます。人気を一時的なブームに終わらせるのではなく、長い年月に渡って高い評価であり続けるためには、簡単には供給を増やさないことも重要なのです。
近年、「行列」がブームになっています。並ぶという行為をしなければ簡単には食べることができない、ということがスパイスとなって、より美味しく感じさせるのです。
また「期間限定」や「数量限定」なども人気を煽る要素になっています。「今しか手に入らない」とか「手間暇をかけて手作りした」という制限が、消費者の好奇心をあおり、それを手にしたときの満足感を高めているのです。こうした「希少性」は、ブランドプレミアムを築き上げる大きな要因となっています。
もちろん、こうした希少性も、単なる話題作りである場合は、手にした消費者からの厳しい審判が下り、あっという間に人気は低下してしまいます。「並んででも買いたい」と思わせるような品質が伴っていることが不可欠です。
効率化ばかりを考えるのではなく、原点に帰って、じっくりとよい商品を作る。それが農産物のブランド戦略には欠かせないのはいうまでもありません。
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄
初出:「農業経営者」2005年3月号(農業技術通信社)