■地域ブランド・マニュアル
第2回:なぜ地域ブランドが必要なのか
地域ブランドが重視されている理由を、その視点から大別すると以下の3つになる。
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1番目の理由(A)は、消費者からの視点で地域や商品の評価を高めるというもの。地域や地域産の商品がブランドになるには、品質や評判を高めて、消費者からの信頼を高めることが重要である。
2番目の理由(B)は、商品の視点。競争が激化している市場で生き残るには他の商品にはない付加価値を高めるしかない。その切り札が「地域ブランド」なのだ。
そして3番目の理由(C)は、地域や住民の視点。地域ブランドによって地域経済が活性化し、住民の地域愛着が高まることが期待されている。
以上の3つの視点から、地域ブランドの必要性を説明する。
2-A. 消費者からの信頼がなければ、市場には残れない(消費者の視点)
「消費者を裏切って信頼を失わないようにする」ことの重要性を痛切に感じさせたのはBSE(牛海綿状脳症)事件。食肉卸やスーパーが牛肉の産地を偽って販売していた事実が相次いで明らかになった。さらに鶏インフルエンザやO157、表示内容の詐称など消費者の信頼を裏切るような事件も発生し消費者の安全を脅かしている。そこで農林水産省は牛肉に関しては事業者が食品の生産情報(生産者、品種、出荷日など)を消費者に正確に伝えることを定めた。さらに他の食品への拡大も進めている(生産情報公表JAS規格)。
このような事件が発生した場合は、関連する地域も壊滅的なダメージを受けかねない。それだけに生産者側の安全管理、品質管理を徹底する体制を整え、それを消費者に保証するための「地域ブランド」の構築が必要とされている。
もちろん、これは農作物や加工品などの食品に限ったことではない。消費者からの信頼を裏切るような事件に加えて、企業体制や社員、役員の無責任な行動などが相まって、「名門」と言われていた強いブランドが一夜にして失墜してしまった事件が後を立たない。
地域においても、温泉表示の詐称、集団食中毒、環境問題などによって地域のイメージが悪くなり、観光や地域経済に大きなダメージを与えたケースが少なくない。これらの事件や不祥事によって、もはや「売るために何をしてもよい」「勝てば官軍」という論理は成り立たないことを痛感しただろう。観光、工業、企業誘致、伝統工芸などすべての分野で、消費者からの信頼を得ることができなければ、どんなによい商品であったとしても、市場から「退場」せざるを得なくなってきている。いま改めて地域や企業の「姿勢」が問われているのはこういう理由だ。
2-B. 付加価値を高めなければ、勝ち残れない(商品の視点)
中国をはじめとするアジア諸国からの安い商品に市場を奪われないように、商品の付加価値を高めていく必要がある。
いま日本市場では安い商品があふれている。デフレ経済の主原因の一つが、この安価な商品によるものである。これまで「安くて高品質」を“武器”にしてきた「メイド イン ジャパン」が、その地位を奪われてしまったわけだ。こうした中で、日本はいま何をしなくてはいけないのか?
その答えの一つが付加価値を高めること。つまり品質や、工夫、デザイン、製造・生産技術などの知的財産によって、安い商品にはない「差別的優位性」を高めることだ。もちろん、売れ行きを向上させることも必要だ。日本産、日本製の商品が国内外で売れるためには、アジア諸国などの海外からの輸入品より高いブランド価値があることが条件である。
これまでの地方経済の中心部分は、安い労働力や土地というメリットを活かして首都圏などより安い商品を生産するという「労働集約型」のビジネスでによって成り立ってきた。それを「地域の魅力を活かして、付加価値の高い商品を作る」という「付加価値生産型」のビジネスへの転換を図る、つまり発想を180度変える必要がある。
消費者が接触した商品にある地域(生産地)名が表示されていたとしたとき、その地域名からよいイメージが連想できれば、その地域名は「付加価値」「優位性」となり、売れ行きや価格に反映されることになる。逆に、その地域名から何もイメージが連想できないのであれば、その地域名は何の付加価値も与えていないことになり、競争優位には結び付かない。つまり、その商品によって購買意欲が高められていないことになり、市場では勝ち残ることは容易ではない。
つまり、地域名が商品になんらかの付加価値を与えることができれば、それは「地域ブランド」として価値があることになるが、競争を優位にするような付加価値が与えられないのであれば、それは単なる地域名でしかなく、「地域ブランド」とは言えないことになる。
2-C. 地域を活性化するために、地域の魅力を高める(地域や住民の視点)
地域ブランドのもう一つの目的は、地域の活性化。日本の将来は地域の活性なしでは考えられない。つまり、地域ブランド化を進めることで、地域経済を活性化させようという狙いだ。
2003年から2005年にかけて起きた「平成の大合併」。市町村の合併の目的は行政のスリム化ばかりではなく、地域の活性化も重要だ。つまり市町村合併によって自治体の体力を高め、地域経済を発展させようという狙いがあるのだ。
しかし、合併したからといってそれだけで自治体の体力が向上するわけではない。新しく誕生した市町村を活性化するためには、その地域の魅力度や産業力を高める地域ブランド抜きでは語れない。合併で注目が集まり、住民の関心も高まっている。こうした地域の意識が高まっているときに、地域ブランド戦略に取り組むことでその成功への確立は非常に高くなる。
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄