■地域ブランド・マニュアル
第4回:地域ブランドの構築
「地域ブランドを新たに作る」という活動は、その地域ブランドの状況によって、大きく2つに分類することができる。
一つはあまり知られていない地域そのものを新たな「ブランド」として売り出し、有名になろうという動き。地域の知名度も低く、イメージも決して高いとはいえない。そして自治体の規模もあまり大きくなく、観光資源や産業にも乏しいというケースで、その地域を活性化するための「切り札」として地域ブランドに取り組んでいるという場合だ。つまり、全く新しい「地域ブランド」を作っていくというものだ。
他方は、すでにその地域には名産品や農産物、歴史、建造物など、ある程度は名前が知られているものがあるという場合。全く新たに地域ブランドを作るのではなく、いまある資源を有効活用して「地域ブランド」に仕立て上げようというものだ。
一見、まったく状況が違っているように見えるこの2つのケースも、実はブランド戦略上でとるべきことは同じである。つまり、まだ十分に強くはなっていないブランドの価値を見出し、その価値を高めていくという戦略なのだ。そして、そのために必要な戦略は以下の3つである。
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以下では、この3つの戦略について具体的に説明をしていく。
4-A. ブランド・プレミアム戦略 (付加価値)
そもそもブランドとは、古代ノルウェー語の「焼印」を意味する言葉に由来している。これは放牧している牛や羊の中で、自分の所有しているものを区別するために焼き印を押したことからはじまった。しかし、もしその牛や羊が他のものより優れている点がなければ、そもそも焼き印をする必要がない。つまり、焼き印を押すのは、他の製品より優れているからである。「差別的優位性がなければ、ブランドではない」という理由はここにある。この差別的優位性のことを「ブランド・プレミアム」という。
地域ブランド、および地域ブランド商品このプレミアムとは、商品やサービスが他のブランドにはない特徴を明確にしたもの。他の地域のものより優れている「付加価値」を有し、それを商品化したものである必要がある。単に生産量が多いというだけではプレミアムにはならない。
右図に供給曲線を示したが、需要が一定の時には供給量が増えるほど価格は下落してしまう。逆に、供給量が少ないほど価格は上昇する。つまり、市場において供給量を少なくする(希少性を高める)ことが、販売価格を高めることが出来ることを意味している。
ある商品が他商品にはない特徴を有しており、オンリーワン(他には全くない)、あるいはナンバーワン(他より優れている)という評価が得られたとする。この場合、この商品は市場において他商品の追随を許さず(類似品が出現しない)、希少性を確保できて価格は上昇する。これが価格プレミアムになるのだ。
この際、特徴はささいなものであってもいい。製造方法や素材、形状などなんでもいい。ただし、その特徴は単なる思い付きで一朝一夕にできるものではいけない。なぜなら、他社も一朝一夕にまねすることが出来てしまうからだ。品質を高めるための徹底した研究と努力。そうした血と汗と長い時間をかけて作られた特徴であればあるほど、プレミアムは持続することになる。さらに、特徴がその地域特有のものであった場合、プレミアムは恒久的に持続することが可能になる。
地域ブランドとして成長させやすいのは、その地域の地形、気候、土壌、水などを活かした特産品を核とするものだ。たとえば、地元で栽培された野菜や果物を使った加工食品、地元天然水から作られた日本酒などがその一例である。しかし、これらのほかにもプレミアムの題材となるものを整理してみると、以下のようなものがある。
ここに挙げたように、実に様々なものがプレミアムになりうる。例えば人的資源としては、人間国宝や歴史上の人物に限らなくてもよい。「××地域で△△作り20年、A田B男さんの作った商品」というものをブランドにすることも可能である。また、映画やドラマの舞台となったシーンや、祭り、イベントなどは多くの人やマスコミの注目を集めやすく、話題性の点では事欠かない。鳥取県境港市は「ゲゲゲの鬼太郎」を題材にした「水木しげるロード」、宮城県石巻市では「サイボーグ009」などの作家である石ノ森正太郎氏による「石ノ森漫画館」などをシンボルとして、地域ブランド戦略を展開している。
また、讃岐うどん、宇都宮餃子、横須賀海軍カレー、喜多方ラーメンなどの食(グルメ)や、御殿場のアウトレットなどの店舗なども「日本一の××」としてプレミアムの題材になって多くの人気を博しているケースが少なくない。
これらのように、商品のスペック(大きさや性能)、デザイン、製造技術など、商品そのものからプレミアムを探すのではなく、人為的に、さまざまなアイデアでプレミアムを作り上げることも可能である。
その一方で、全国各地域には名産品や農産物、歴史、建造物など、ある程度は名前が知られているものが多く存在している。これらの認知度やイメージをさらに高めて、それを地域ブランドにしようという動きも多い。ところが、「特産品」「名産品」と呼ばれていても、それが単に昔の製法のまま作り続けられているだけで、他の地域の類似商品と品質的にはあまり差がないのであればプレミアムにはなりにくい。
名産品や歴史的建造物などの中から、その地域の特色を打ち出すことができ、多くの消費者の目を引き付ける魅力があるものはどれかを吟味することが必要である。逆に、埋もれてしまっている中に、全国的に珍しい「宝」が隠されている場合もある。固定概念にとらわれずに、何が消費者の心をつかみ、他商品と差別化することが可能であるかを見つめなおすことが必要だろう。いずれにしても、他の地域にはないその地域独自の「魅力」を明確にしていくことがブランド戦略には最も重要である。
「コミュニケーション戦略」とは、「誰に伝えるか」という戦略。伝わった人数を単に増やすのではなく、伝えたことによる効果を高めることを考える戦略と言える。
従来のマーケティング戦略の基本は、「より多くの人に伝える」というマス・コミュニケーション的な発想による手法が中心であった。ところがブランド・コミュニケーション戦略では、「特別に選ばれた人に、限定した情報を提供する」という手法だ。したがって、この戦略で重要なのは、「コミュニケーションする相手が誰であるか」と、その相手が「どのような情報を必要としているか」という2つである。
ブランドを購入し、使用することで、その商品のユーザー(顧客)は多くの満足を得ることができる。言い換えれば、ユーザーはブランドを代金と引き換えに利益を得ていることになる。逆に、そのブランドによって利益を得られなければ(十分な満足を得られなければ)、彼らは代金を支払わない(購入しない)ことになる。
したがって、その商品やブランドは、ユーザーのニーズ(要求)を満たす努力をしなくてはならない。ニーズが満たされなければ、彼らは満足するはずはないからだ。もちろん、人によってニーズは異なっている。だから、顧客一人一人にどのようなニーズがあるのかを聞き、その人のニーズに見合う商品やサービス、情報を提供することが必要である。つまり、一方的に画一化された商品やサービス、情報を提供するのではなく、その人のニーズに合わせて商品やサービス、情報を提供する「コミュニケーション」が大切となってくる。
また、消費者心理としては、「あなただけに特別に」と言われると、その満足度も向上しやすい。自分は特別に選ばれた人であるという「特別なおもてなし」は、そのブランドへの興味を抱かせる決め手となりうる(顧客満足度を高める戦略については後記)。そこで、情報やサービスのやりとりは、多数を相手にせず、個々に行っている(ワン・トゥ・ワン)ことを感じさせるのが重要だ。
「コミュニケーション」とは一方的な情報発信のことではない。相手が何を要求しているかは、相手から情報をもらう、すなわち会話(情報交換)なしでは成り立たない。それ以前に、相手が誰であるかを知る必要がある。
ブランド・コミュニケーションとは、従来の販売促進や、広告宣伝とは違っている。つまり、商品の作り手の立場で情報を一方的に提案する「メーカービュー(作り手の視点)」ではなく、消費者や顧客が持つ多様なニーズに応える「カスタマービュー(消費者の視点)」でなくてはならない。前ページの3つの視点は、まさに消費者(顧客)視点での発想に切り替えることによって可能になるが、そこで提供する情報の内容にも工夫することが必要だ。
そのブランドは他よりどこが優れていて、他にはない魅力とは何であるのかという「プレミアム」を明確に打ち出すことは重要だが、そのプレミアムが消費者(顧客)にとってどれだけ魅力的であるのか、どれだけ満足度を高めることが出来るかを訴えることは、その商品の特徴を伝え、購買意欲を高めるには効果的だ。つまり「ここが優れている」ではなく、「あなたにとって、こんなに魅力的」という視点だ。例えば、「北海道には大自然がある」という事実を伝えるのではなく、「北海道に行って、大自然を楽しもう」と呼びかける。そこからユーザーに何がしたいかの連想をさせ、それを満たすようなツアーを組んだり、それを体験できる商品を提供したりするという方法だ。
もうひとつの効果的な方法は、そのブランドの魅力を語り部が語りかけるということ。ちょうど、子供が母親に物語を読んでもらうように。そのブランドはどのようなこだわりをもって作られたか。商品の由来、作られるときのエピソード、そしてその土地にまつわる伝説・・・。商品の特徴を淡々と説明するのではなく、思わず聞き入ってしまうような「神話」を語れば、その商品への興味度は倍増する。
この「語り部」に魅力があれば、その効果はさらに倍増する。語り部はその商品へのこだわりをもった人や、著名人、行政のトップ、あるいは歴史上の人物でもいい。そのブランドに対して深い愛情を持って真剣に語ることで、ブランドに興味を持つ人が増えることは間違いない。
ところで、最近は、何かに興味を持った場合、すぐにWebの検索サイトで検索する消費者が増えている。また、興味のあることについてメールマガジンを登録したり、またブログや掲示板を閲覧したり、消費者から積極的に情報発信をしたりすることも珍しいことではなくなった。インターネットの普及率が80%を超え、特に10代後半から50代の男女では、ほぼ90%の人がインターネットに接続した経験がある。
地域ブランドも、このようなインターネットを利用したコミュニケーションを積極的に活用することによって、その効果は飛躍的に拡大できる。
第一歩として、まず専用のホームページを開設する。これがあれば、一瞬でも興味を抱いた消費者にブランドの説明をする機会が得られる。反面、これがなければ、ブランドを提供する主体がないものとみなされ、いったん抱いた興味を減衰させることもあり得る。
ブランドのホームページは、行政のホームページや参加企業のホームページなどの一部として開設してはいけない。なぜなら、地域ブランドは行政や民間企業が協調して作るものではあっても、それらのいずれかに従属したサブブランドではないはずだからだ。行政や企業ホームページの下位のサイトとして構築されていると、それらのサブブランドという印象を与え、ブランドイメージにも多大な影響を及ぼす(ただし、行政や参加企業のサイトなどとの相互リンクは積極的に行うのが良い)。
ホームページは、単に情報を発信するだけでなく、消費者の声も集め、それを消費者と共有する仕組みを持たせることが望ましい。具体的にはメールフォーム、ブログ、掲示板などのツールを使うことになるが、それぞれに長所と短所があるので、ブランドのコンセプトに沿ってWeb活用の目的とコンセプトを明確にし、それに沿ってツールを選択する。
「ホームページの構造は、その組織の構造の雛形となる」とも言われている。このため、地域ブランドのホームページ作成は、ブランドのコンセプトと組織が消費者に対して適正なものであるかどうかを検証する機会ともなる。
なお、ホームページは、開設後に各方面からさまざまな意向が寄せられるにしたがって、少しずつ内容が変わり、知らず知らずのうちに当初のコンセプトから逸脱してしまうことがしばしばある。ブランド専任組織はこの点に十分注意を払い、ホームページの現状把握、改訂内容の管理、臨機応変の見直しなど、適切に管理しなければならない。
4-C ブランド・ロイヤルティ戦略(顧客満足)
「ロイヤルティ戦略」は顧客の満足度を高めて、忠誠心の高い顧客を増やすという戦略だ。従来、顧客満足度(CS)とは「クレーム(苦情)処理」というイメージが強かったが、これはブランドリスク対策の一部。ブランド構築におけるCSという観点は、顧客の満足度を高めて、再訪問や再購入を促し、売り上げや利益率を高めるという戦略なのだ。
ブランドのユーザー(顧客)を、その商品に対する購入頻度をもとに以下の3つに分類することができる。
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1.ロイヤルユーザー
ロイヤルユーザーとは、ある分野の商品を購入する際、躊躇せずそのブランドの商品を選択する顧客のことである。ロイヤルユーザーによる売り上げはその商品の総売り上げの相当な割合を占めることになる。また彼らは口コミでそのブランドを普及、評価を引き上げる力も持つ。
このため、ロイヤルユーザーがどのような人々で、そのブランドにどのような期待を抱き、どのような形で満足し、あるいはどのように不満を抱いているかを把握することは、ブランドの価値を高めていく上で非常に重要な仕事となる。
一般的には、ロイヤルユーザーは全ユーザーの2割を占めるが、全利益の8割をもたらすと言われている。だからロイヤルユーザーの人数が多ければブランドは多くの利益をもたらす。さらにロイヤルユーザーは乗り換える心配がないから将来的にも安定する。ブランドとして成功するにはロイヤルユーザーを獲得することが不可欠なのだ。
ロイヤルティ戦略が最も長けている例は東京ディズニーリゾートだろう。来場者の大半が繰り返し何度も来場している(東京ディズニーランド単体では90%以上がリピーターだった)。「もう一度行きたい」と思わせるには、来場した際の満足度を高めることが重要である。常に顧客の「期待」に応える質の高さが重要だが、それに加えて、期待を超える「驚き」、再訪問のきっかけとなる「新しさ」というものが不可欠である。
さらに、ロイヤルユーザーは自分が感じた満足度を他人に伝えようとする。しかも自分の体験に基づいたロイヤルユーザーの言葉は具体的で、かつ感情がこもっているために、説得力がある。つまり、ロイヤルユーザーは、そのブランドの魅力情報を発信する力が強い。
広告やPRもしていないのに、その商品の評判が伝わり、「ひそかなブーム」となった例は後を絶たない。これらはすべてそのブランドの体験者を情報源とする口コミによって、もたらされたブームなのだ。最近はインターネットの普及により、掲示板やブログなどのネットコミュニティを利用する人が急増している。この影響により、こうしたロイヤルユーザーの情報発信力は格段に成長(高度化)している。
したがって、ロイヤルユーザーを確保することは、売り上げや利益の拡大と、経営の安定をもたらすと同時に、強力な情報発信手段を持つことになる。それゆえにロイヤルユーザーを多く囲い込むことは、ブランドの成功にとってはとても重要である。
逆に、ロイヤルユーザーが忠誠度を下げて一般ユーザーに戻ってしまえば、ブランドは凋落を始める。そうならないためには、ブランドの魅力を伝え続けることと、上得意客としてなんらかの優遇を行うなど
の方法がある。優遇は単に値引きをするなどのいわゆる「サービス」ではなく、むしろブランドの評価を提供者といっしょに引き上げる特別な存在として認め、彼らの自尊心も満足させるようなものであることが望ましい。
また、ブランド・コミュニケーションの章でふれたように、ロイヤルユーザーに「あなただけ」という特別なもてなしをすることは、ロイヤル度を高めるのに効果的だ。百貨店や航空機、クレジットカードなどのポイントサービスなどは、使った分だけポイントがたまってサービスが受けられるという仕組みになっている。これもロイヤル度を高めるのには効果的だ。
2.一般ユーザー
一般ユーザーは購入したことはあるが、他の商品に乗り換える可能性がある移り気なユーザーのことである。一般的には全ユーザーの8割を占めており、人数的にはロイヤルユーザーの数倍もいる。
この一般ユーザーをいかにロイヤルユーザーにするかが、そのブランドが強くなる決め手となる。一般ユーザーが他の商品に乗り換えるということは、そのユーザーにはその商品にしかない特徴や魅力が十分に伝わっていないことを意味している。つまり、一般ユーザーにその商品が他の商品より優れている点を伝えることである。ただし、人の嗜好やニーズは多様化しているので、その商品の特徴がその人にとっては魅力と感じないかもしれない。そのときは、そのユーザーの嗜好やニーズを聞き、それを商品開発に生かすことだ。
ユーザーがどの点に不満を持っているかを知り、その不満を取り除けば、忠誠度は高まるはずだ。このようにユーザーの声に耳を傾け、その満足度を高めて一般ユーザーをロイヤルユーザーに変える。
ユーザーの声を聞くには、投書などを待っていたのでは十分とはいえない。ユーザーが自らの意思で発する情報には好意的なものが多いために、この結果を信じると過大評価につながってしまう。また、自ら文字として伝えられる情報は、その人が持っている感情の数分の一にすぎない。
正確な手法に基づいたアンケート調査などで定量的に調べ、奥歯に引っかかった不満を引き出すような工夫が必要となる。その結果から、その商品の不満や不都合を明らかにし、それを解消するための商品・サービスの改良を検討する。改良によりブランドを傷つけることがないとわかれば、迅速に実施する。こうした努力が強いブランドにつながる要因となるのだ。
3.潜在ユーザー
潜在ユーザーとは、そのブランドの購買対象者でありながら、これまで購入したことがない人のこと。潜在ユーザーがユーザーにならない(購入しない)のは、なにかの理由、つまり最初の購買を妨げる阻害要因がある。そこで、より多くの潜在ユーザーを一般ユーザー、ロイヤルユーザーにシフトさせるために、どのような阻害要因があるかを調べ、それを取り除くための手を打たなければならない。
さて、代表的な阻害要因には以下のものがある
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「販売している場所がわからない」「販売している場所が近くにない」に対しては、販売している場所を伝える方法を考える。また、ブランドを傷つける心配がないかどうかを検証しながら、販売店、販売チャネルを増やす努力をする。
「ターゲットが自分ではないと感じ、気がひける」というタイプの潜在ユーザーが多い場合は、ブランドのコンセプト、ターゲットの選定に修正を加えるか、サブブランドを設定して商品ラインナップを増やすなどでブランドを拡張する必要がある場合がある。
たとえば、当初若い女性をターゲットとしたが、消費者のうち中年男性からも価値が認められた。しかしパッケージや販売店が若い女性向きであるため、ほとんどの人が購入に踏み切れない、といった場合が考えられる。その場合は、両方のターゲットを狙った商品としてコンセプトに修正を加えるか、中年男性向けのサブブランドを設定するという対策を検討する。
ただし、これらの対策はそのブランドを傷つける、または破壊してしまう危険も伴うので、実際に対策を打つかどうかはユーザー調査も実施して反応を予測した上で慎重に検討するべきである。ブランドの修正や拡張が適切ではないと判断した場合は、その新しいターゲットは潜在ユーザーのカテゴリーから除外する。
「ターゲットにとって、価格が高すぎると感じられている」というタイプの潜在ユーザーが多い場合は、ブランドのコンセプトとターゲット設定の間に無理があるか、ターゲットに対して価格設定に無理があるかのどちらかが考えられる。前者の場合はコンセプトの再検討が必要。後者の場合は価格を修正することを検討する。ただし、「値下げ」という動きを見せるとブランドを傷つけることにもなりかねないため、商品の内容やパッケージングに若干の修正を行うなどと合わせて手を打つことが望ましい。
「ターゲットの利用シーンに合ったパッケージングがされていない」とは、たとえばファミリー向けの商品であるのに、1梱包当たりの入数が3個であるとか、未婚女性向きの商品であるのに、1梱包に1人で消費期限内に消費し切れない量が入っているなどといったことである。また、贈答に使いたいと考えられながら、パッケージが家庭内消費を前提としたカジュアルなものである、といったケースもある。どんな人にどのように利用されるかのコンセプトを再確認した上で、適切なパッケージングにする必要がある。
「他の商品を使い続けなければならないなんらかの事情がある」とは、競合品にしか利用できない容器を買ってしまったとか、発言力の強い家族が競合品のロイヤルユーザーであるなどといった場合である。それぞれに対策は考えられるが、いずれの場合も競合品そのものを本人が評価しているわけではないので、一般ユーザー、ロイヤルユーザーへのシフトはそれほど難しいわけではない。なんらかのきっかけで、非常に強いロイヤリティを示す可能性もある。
このように、そのブランドの潜在ユーザーがどのような阻害要因を持っているかを調査し、その原因を排除することが、ブランドを反映させるためには重要である。同時に、潜在ユーザーに対しては、まず一度利用してもらえるような手を打つ。これには、最初の購買を妨げる要因を排除すること(後述)の他、商品サンプルを配布したり試用・試食会などを開催したりするなどの方法がある。ただし、当然その最初の利用でよい印象を抱いてもらうことが大切なので、強引な方法や安売りなど、ブランドの価値を下げるような方法は避けなければならない。
また、この阻害要因は常に変化をしている。ブランドに対するユーザーの心理や行動は、全く不動ということは少なく、社会情勢の変化、流行、ユーザーの加齢、当該ブランドや他のブランドの変化(コンセプトやラインナップなど)等を受けて刻々と変わるものと考えた方がよい。
これに対して、根拠なく自分たちのブランドに対する評価は変わっていないはずだと考えたり説明したりすることは、ブランドの破滅にもつながりかねない危険なことだ。自分たちのブランドが実際にどのように評価され、どのような人々に、どのように利用されているか、そしてどの程度満足しているかを定期的に調査、検証することは、ブランド力を維持し高めていくためには不可欠なことである。
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄