■地域ブランド・マニュアル
第7回:地域ブランドの管理
地域ブランドの人気が高まるにつれて、それらを真似た(あるいは不当に使用した)商品(類似品)が流通する危険が高まる。そこで、こうした類似品や粗悪品によってブランドが傷付かないようにしようという動きも重要になる。
7-A. 地域ブランドの商標と権利
今年の国会で商標法の改正案が成立し、2006年4月から施行されることになる見込みだ。すでに多くの問い合わせが特許庁に寄せられており、その期待の強さが伺える。これまでは基本的には「地域名+一般商品名」という組み合わせの文字は商標として認められなかった。ところが今回の商標法の改正により、これが大幅に緩和されることになる。
ところが、商標を登録するに当たり、以下を明確にする必要がでてくる。
@ その登録の申請者(権利保有者)を誰にするか
A 何を登録するか(文字、図柄)
B どのような管理体制にするか
C 使用ルールはどうするか
商標を登録したからと言って、商品が売れるようになるわけではない。しかし、商標の申請や管理には労力も費用もかかるため、それらの負担をどのようにするかを検討しておく必要がある。実際に、国内での地域ブランドの商標が増加するにつれ、それにまつわる訴訟やトラブルも増えている。しかも、中国をはじめとする海外における日本の地域ブランドに関連するトラブルも聞かれるようになって来た。
また、商標以外にも特許権、営業権などの権利や、ブランド使用料(ロイヤリティ)などの管理も必要である。その他にも流通量、流通チャネル、品質など管理すべきものは他にもある。
7-B 地域ブランドの管理
こうした知的財産としての「地域ブランド」を守るという作業はとても重要になってきているが、それ以上に重要なのは、守るべきブランドの品質や評価を下げないようにすること。いくら商標を管理できていても、商品の品質やイメージの低下によってブランドの価値そのものが失われてしまえば何の意味もない。消費者によるブランドの評価、商品の品質管理などによってブランドの管理(ケア)を行うことを忘れてはいけない。
「ブランドの価値(エクイティ)は、その管理によって大きく高まることもあれば、一瞬にして低下することもある」(デイビッド・A・アーカー 米カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)。地域ブランドの価値を下がらないようにするためにも、ブランドの管理を戦略的に行うことはとても重要である。
ブランドの価値を下げるケースとして主なものに以下の4つのリスクがある。
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「裏切る」とは、表示内容を詐称したり、安全管理を怠ったりすること。これは消費者が直接的な不利益をこうむることになるために、ブランドにとって致命傷となりうるので、もっとも注意しなければならない。
「腐る」とは、ブランドが時代遅れになってしまい、魅力を失うこと。古い慣習を重視しすぎて、新しい商品の開発が遅れることがある。従来の製造方法などを守ることは重要であるが、その一方で、新しい試みも必要である。いま、時代の波はすごい勢いで流れている。今売れていても、移り気なユーザーに飽きられてしまい、ロイヤルユーザーも高齢化してしまい、次第に売れなくなってしまう。売れているときにこそ、技術の革新や、新しい試み、新しい商品が必要なのだ。
「浪費する」は、売り上げを重視する余り、安価な価格で取引されてしまうこと。あるいは、製造量が多くなって、希少性がなくなる場合もある。これによってブランドの魅力が薄れてしまい、ユーザーが離れていってしまう。また、ブランド力を活用して商品開発をする場合に、元のイメージと違う商品が発売されると、ブランドイメージ自体が希薄になってしまい、ブランド全体の魅力が薄れてしまうこともある。
「流出する」とは、類似品が出現すること。しかし、商標権などの権利で保護することでこれを防ぐことは可能である。ただ、人的側面の強い地域ブランドにおいては、職人の流出(転出)、後継者の不在などもブランドを低下させる要因となる。
こうした4つのリスクが発生しないように、地域ブランドの担い手は、常に管理する必要がある。
7-C 住民に対する説明
地域でブランド構築に取り組むには、住民への説明、情報発信も必要になる。これは予算や人員など行政のリソースを動員するのであれば当然のことだが、それ以上の意味を持つ。
先に指摘している通り、ブランド構築は一部の関係者や組織だけで実現できるものではなく、そのブランドにかかわるあらゆる関係者が一丸となって取り組まなければならない。その関係者の中には、地域の住民も含まれるのである。
仮に、地域ブランド作りに直接取り組む関係者によって、そのブランドを用いた商品をいくつか市場に投入したとする。このとき、地域住民が他の地域に住む消費者(購入者や観光客など)に対して、本来のブランドのコンセプトとは異なる解説をしたり、ブランドを傷つけるような評判を立てれば、ブランド構築に向けた努力は水泡に帰してしまう。
このような事態を避け、むしろ地域住民をそのブランド戦略に積極的に参加させ、地域を挙げてブランド構築に取り組む形に持っていくことが肝要だ。これは単に宣伝効果が上がるということではなく、それでこそ、地域に根ざした地域ブランドという、あるべき姿になるためだ。
また、地域住民は主権者という意味では、行政が関与する地域ブランドの持ち主であり、他地域の消費者への商品提供者でもある一方、そのブランドの商品のユーザーでもあり得る。地域住民が、そのブランドの第一のユーザーとなり、熱烈な支持者=ロイヤルユーザーとなれば申し分ない。ロイヤルユーザーが発する口コミは、新たなユーザー獲得に非常に大きな影響を与えるからだ。
ただし同時に、これは簡単なことではない。一般に、ブランド構築・管理に対する投資の効果は短期的な売り上げや利益などの形では表れにくい。そうしたものに公共のリソースを振り向ける意義の説明は、道路や建築などの場合と違って、より難しいと考えておくべきだ。
そのため、先のブランドの目的と目標の明文化は、住民の視点からも練られている必要がある。
また、これら地域住民への情報発信は、一度の説明にとどまらず、その後も定期的に行うことが重要だ。
ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄