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■地域ブランド最前線

第1回 地域ブランドとはなにか

 いま全国で地域ブランドへの取り組みが本格化している。百貨店やスーパーの店頭では地域名を冠した商品が多く並び、しかもとんでもない高い価格の商品が飛ぶように売れている。また、地域の老舗の銘品を求めて遠くから人が押し寄せ、店頭には長蛇の列ができる。いままさに地域ブランドのブームが到来している。

 ところが、こうした地域ブランドの取り組みと見える中にも、単なる地域名を冠しただけの商品開発だったり、マークやパッケージのデザイン改良だったり、あるいは名ばかりの認証制度であったりするケースも少なくない。

 例えば宮崎県の土産品で人気がある「宮崎マンゴープリン」。パッケージには堂々と「宮崎県産マンゴー使用」という文字が躍り、東国原知事の似顔絵が描かれている。ところが原材料表示を見ると「原材料:マンゴー(宮崎県産マンゴー5%使用)」とかかれている。つまり、95%は宮崎県産以外のマンゴーが使用されていることになる(!)。

 宮崎旅行への記念に宮崎の土産を買ったつもりが、95%が他産地のもので、製造も他産地と知るとがっかりする(注:宮崎県産マンゴーだけを使った商品や宮崎県内の工場で作られた商品もある)。どうせ宮崎の記念であれば、宮崎のマンゴー農家や宮崎の産業の活性化につながる商品を購入したいと思うのが消費者の気持ちだろう。

 イメージの高い地域の名前をかたって商品を売るのは、単なる地域という名前やロゴを使ったネーミングビジネス、あるいはキャラクタービジネスでしかなく、地域活性化の切り札とされる地域ブランドとは違う。

 地域ブランドとは、その地域の資源を活用して、地域そのものや地域の産品、観光などが高い評価や期待を得ているもののことである。地域の魅力を地域内外の人に伝えることによって、その地域の評価を上げ、「住んでみたい。観光に行きたい。商品を買いたい」といった気持ちにさせていく。それにより、その地域に人が集まり、お金も集まってくる。

 つまり、地域の商品が売れるようになることと、地域イメージが良くなることの両方の結果、地域の雇用が促進し、観光などへの相乗効果が生まれ、地域が豊かになる。こうした好循環によって地域が活性化していくことを目的としているのが地域ブランドへの取り組みなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■地域ブランドに取り組む四つの理由

 いま、日本中で地域ブランドの取り組みが行われている。都道府県や市町村などの自治体をはじめ、商工会議所や商工会、農協や漁協などの組合、陶磁器や家具などの地場産業の団体、そして地域で営む中小企業が競うように本格的な取り組みを開始している。国も経済産業省や農林水産省、総務省など、そしてそれらの外郭団体などが相次いで地域ブランドへの取り組みを推奨するような支援策を打ち出している。いままさに日本中で地域ブランドへの取り組みが本格化している。なぜこんなにも地域ブランドへの取り組みが盛んになっているのだろうか。その理由と目的は、主に次の4つにまとめられる。

一つ目は地域活性化のため。現在の日本では、人口が減少する中で、地域の過疎化、高齢化が急速に進んでいる。それにより、地域が次第に疲弊していっているのが現状である。そこで、地域の農業や工業、流通、観光などを活性化させて、その地域にヒト・モノ・カネを呼び込むことで持続性を高める。これを実現するための切り札として登場したのが地域ブランドへの取り組みなのだ。

二つ目は消費者保護。原産地偽装や表示違反など、消費者の信頼を裏切るような事件が相次いで発生し、暮らしの安全を脅かしている。それゆえに、消費者の間で、地域で安全に健康的に作られたこだわり商品を求める声が高まっている。同時に、効率化と低価格を優先して作られた、画一化された大量生産品とは対極にある、地域の食材や伝統的な技術で裏打ちされた豊かな商品が求められている。つまり、原産地を明示し、作り手の思いを伝えるという「地域と作り手の顔が見える」商品やサービスへの取り組みだ。地域ブランドとは、地域が手作りで心をこめた、その地域にしかつくれない「地域を付加価値とした新しいビジネスモデル」なのである。

三つ目は地域の利益保全。原産地偽造や地域名を語っただけの商品は、消費者を裏切るだけではなく、その地域が得るべき利益を目減りさせることにもなる。その地域にある歴史的な商品やその製造手法、地域のイメージなどは、その地域特有の資産であり、その地域に住む人や事業を営むものが得るべきものである。しかし、その地域のイメージが高まったり商品が売れたりすると、それにただ乗りして恩恵にあずかろうとする動きは必ず生まれるものである。それを排除して地域の資産を守ることが必要になる。

一昨年に誕生した「地域団体商標」は、「地域名+商品・サービス名」という組み合わせの名前を、その地域で営む者がものだけが商標として登録できるようになったいわゆる「地域ブランド」の商標制度である。これまでに日本中で約800件が申請され、350件ほどが登録されている。この制度の誕生が地域ブランドへの取り組みを促進させることになったのは間違いない。

四つ目は日本の知的財産という観点。日本という国にとって、それぞれの地域が財産なのだ。東京など都市圏への集中が高まる一方で、地域が疲弊している。これは各地域にある文化や伝統工芸、食文化、芸能、生活習慣などが薄れることを意味している。これらは日本固有の知的財産であり、歴史的・文化的価値の高いものが少なくない。そこで、これらの知的財産を後世に残していく必要がある。地域ブランドの取り組みとは、こうした地域にある資源や資産を再認識し、それらを活用して地域活性化に結び付けようという取り組みでもあるのだ。

地域ブランドとは、これらの4つを目的として取り組まれるものである。つまり、地域の魅力を付加価値にして、他の地域や企業には作れないような商品やサービスをつくり、地域そのものの評価を高める取り組みなのだ。そして、それが達成できれば、その地域は活性化し、そうした地域が増えれば日本という国の繁栄につながるだろう。

                  ブランド総合研究所 代表取締役社長 田中 章雄

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