1-A 地域ブランドの定義
いま全国で「地域ブランド」への取り組みが本格化している。ところが、地域によって、あるいはその担当者によって「地域ブランド」の定義が必ずしも一致していない。地域でヒットしている商品のことを「地域ブランド」と呼ぶ人もいれば、地域名を商品の名前に冠した商品のことを「地域ブランド」と呼ぶ人もいる。あるいは歴史的建造物や自然景観などの観光資源にちなんだ商品作りを「地域ブランド」と呼ぶ人もいる。
そこで、最初に「地域ブランド」の定義を決めておく必要がある。
図1は経済産業省による地域ブランドの概念図である。これによれば、「地域ブランド化とは、(T)地域発の商品・サービスのブランド化と、(U)地域イメージのブランド化を結び付け、好循環を生み出し、地域外の資金・人材を呼び込むという持続的な地域経済の活性化を図ること」とある。
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▲ 図1 地域ブランドの概念図 (経済産業省) |
したがって、単に地域名を冠した商品だけが売れていてもダメであるし、その地域のイメージがよいだけでもいけない。この両方がうまく影響し合い、商品と地域の両方の評価が高くなっていく必要がある。地域ブランドが高まれば、その地域名を付けた商品の売れ行きに結び付く。そしてその地域の雇用を促進し、地域イメージがよくなり、観光などへの相乗効果が生まれ、地域を豊かにする。こうした好循環を生み出すことになる。
これらの考えをもとに地域ブランドは以下のように定義することができる。
- 地域ブランドとは、「地域に対する消費者からの評価」であり、地域が有する無形資産のひとつ
- 地域ブランドには、地域そのもののブランド(RB)と、地域の特徴を生かした商品のブランド(PB)とから構成される
- 地域ブランド戦略とは、これら2つのブランドを同時に高めることにより、地域活性化を実現する活動のこと
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つまり、地域ブランドとは、地域の特長を生かした“商品ブランド”(PB = Products Brand)と、その地域イメージを構成する地域そのもののブランド(RB = Regional Brand)とがある。これらのどちらか一方でも地域ブランドとはならないし、両方が存在してもそれぞれがバラバラであったのでは「地域ブランド」とは呼べない。地域の魅力と、地域の商品とが互いに好影響をもたらしながら、よいイメージ、評判を形成している場合を「地域ブランド」と呼ぶことができる。
1-B ブランド戦略とは
ブランドとは、「商品や組織に対するステークホルダー(消費者や顧客、関係者などの利害関係者)からの評価」のこと。つまり販売量や利益だけを目的とした「いかに売るか」「儲けるが勝ち」という発想ではなく、商品や企業の魅力(差別的優位性)と評価を高めることによって、商品や企業の価値を高めるのが「ブランド戦略」である。これは地域ブランドにもあてはまる。つまり、地域ブランド戦略とは「地域や商品の魅力と評価を高める」ことであると言える。
つまり、ブランド戦略とは、「いかに売るか」という指標ばかりではなく、新たに「どれだけ評価されているか」という指標を導入し、その評価を高めるように行動するというものである。だから、「売るためには何をすればいいか」という発想ではなく、「消費者からの評判を高めて、支持されるようになるには、何をすればいいか」という視点で商品開発やマーケティングや、地域活性化を考えようという戦略なのだ。
下図はタテ軸に「売れ行き」という指標を取り、横軸には「評判がいい」という指標をとったグラフ。ここでタテ軸を売れ行きがよい商品とあまりよくない(売れない)商品の2つに、横軸を評判のよい商品とあまりよくない商品の2つにわける。すると、全体が@売れ行きも評判もよい、A売れ行きはいいが評判はあまりよくない、B評判はいいが売れ行きはよくない、C売れ行きも評判もよくない、の4つに分けられる。
このグラフに各地域にある商品をプロットしたとき、各商品がどこにプロットされるかをチェックすることが重要である。なぜなら、地域ブランドの各商品が、どの位置にプロットされるかによって、とるべき戦略が異なってくるからだ。
@にプロットされた商品
このエリアにプロットされた商品は、売れ行きも評判もよいという、申し分ない「強い商品」である。このエリアに多くの商品がプロットされるブランドは、「強いブランド」であるということになる。この場合は、この「強さ」をいかに保ち続けるか、すなわち「ブランドの管理」(詳細は7章を参照)が最も重要である。また、この強さを活かして、新しい商品やサブブランドを開発するという「ブランドの拡張」も、その地域の活性化をさらに高めるために取り組む課題ということになる。
Aにプロットされた商品
このエリアにプロットされた場合、その商品の評判は他の商品と比べてよいとは言えない(優位ではない)が、売り上げは好調である。この商品はその地域に多くのキャッシュフローをもたらすことによる貢献度が大きい。そのため、この商品を経営的には重視しがちである。ところが実はこのAの商品が最も課題が大きいのである。
つまり、Aの商品は売れることによりそのブランドの評判を高めることにはならない。ややもするとその商品のために、その地域ブランドの評判は低下してしまう可能性がある。あるいはその商品が他商品の売り上げの足を引っ張っているかもしれない。したがって、地域ブランドを高めるためにまず真っ先に行わなくていけないのは、Aの商品の評判・評価を高めることである。そのためには、その商品の付加価値を高めて差別的優位性を確立することと、そのブランドの評価を下げている阻害要因を見つけ出し、それを排除すること。すなわち「ブランド・プレミアム戦略」である。(詳細は4章を参照)
Bにプロットされた商品
このエリアにプロットされた商品は、評判はよいにもかかわらず、なかなか売り上げにはつながらない商品。その地域のイメージ構築には大きな貢献をしているが、キャッシュフローには結び付いていない。その原因としては、その地域ブランドの知名度や評判をうまく商品開発や販売戦略に活用できていないことが考えられる。具体的には、商品の評判や魅力が、広く消費者あるいはターゲットである潜在顧客に伝わっていないか、コスト管理や販売価格などが適正になっていないことなどである。
そこで、ブランドの魅力情報を発信する「ブランド・コミュニケーション戦略」と、情報を伝えるべきターゲットを明確にし、その人たちの評価をチェックする「顧客ロイヤルティ戦略」が重要になってくる(詳細は4章を参照)。
Cにプロットされた商品
このエリアにプロットされた商品は、売れ行きも評判も特にはよくない。これはその市場において「弱い商品」であるか、あるいはまだ出来たばかりで本格的な販売を行っていない「新しい商品」である。
後者の場合(新製品)は今後どこまで@に近付けられるかを目標に手段を講じていくことが課題だが、前者の場合(弱い商品)はこれまでの戦略に問題があるわけで、思い切った改革(リニューアルや新たな販売戦略など)を行う必要に迫られる場合もある。
そのためには、まずはAの場合と同様にブランドの評判を高めるために「ブランド・プレミアム戦略」を実施し、ブランドの評価を高めた後で、次いでその高い評判や魅力を情報発信する「ブランド・コミュニケーション戦略」と「顧客ロイヤルティ戦略」(詳細は4章を参照)を実施するのがよい。