4-C ブランド・ロイヤルティ戦略(顧客満足)
「ロイヤルティ戦略」は顧客の満足度を高めて、忠誠心の高い顧客を増やすという戦略だ。従来、顧客満足度(CS)とは「クレーム(苦情)処理」というイメージが強かったが、これはブランドリスク対策の一部。ブランド構築におけるCSという観点は、顧客の満足度を高めて、再訪問や再購入を促し、売り上げや利益率を高めるという戦略なのだ。
ブランドのユーザー(顧客)を、その商品に対する購入頻度をもとに以下の3つに分類することができる。
- ロイヤルユーザー 常に必ずそのブランドを選択する
- 一般ユーザー そのブランドの利用経験はあるが、他のブランドも利用する
- 潜在ユーザー そのブランドの利用経験はないが、興味は持っている
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1.ロイヤルユーザー
ロイヤルユーザーとは、ある分野の商品を購入する際、躊躇せずそのブランドの商品を選択する顧客のことである。ロイヤルユーザーによる売り上げはその商品の総売り上げの相当な割合を占めることになる。また彼らは口コミでそのブランドを普及、評価を引き上げる力も持つ。
このため、ロイヤルユーザーがどのような人々で、そのブランドにどのような期待を抱き、どのような形で満足し、あるいはどのように不満を抱いているかを把握することは、ブランドの価値を高めていく上で非常に重要な仕事となる。
一般的には、ロイヤルユーザーは全ユーザーの2割を占めるが、全利益の8割をもたらすと言われている。だからロイヤルユーザーの人数が多ければブランドは多くの利益をもたらす。さらにロイヤルユーザーは乗り換える心配がないから将来的にも安定する。ブランドとして成功するにはロイヤルユーザーを獲得することが不可欠なのだ。
ロイヤルティ戦略が最も長けている例は東京ディズニーリゾートだろう。来場者の大半が繰り返し何度も来場している(東京ディズニーランド単体では90%以上がリピーターだった)。「もう一度行きたい」と思わせるには、来場した際の満足度を高めることが重要である。常に顧客の「期待」に応える質の高さが重要だが、それに加えて、期待を超える「驚き」、再訪問のきっかけとなる「新しさ」というものが不可欠である。
さらに、ロイヤルユーザーは自分が感じた満足度を他人に伝えようとする。しかも自分の体験に基づいたロイヤルユーザーの言葉は具体的で、かつ感情がこもっているために、説得力がある。つまり、ロイヤルユーザーは、そのブランドの魅力情報を発信する力が強い。
広告やPRもしていないのに、その商品の評判が伝わり、「ひそかなブーム」となった例は後を絶たない。これらはすべてそのブランドの体験者を情報源とする口コミによって、もたらされたブームなのだ。最近はインターネットの普及により、掲示板やブログなどのネットコミュニティを利用する人が急増している。この影響により、こうしたロイヤルユーザーの情報発信力は格段に成長(高度化)している。
したがって、ロイヤルユーザーを確保することは、売り上げや利益の拡大と、経営の安定をもたらすと同時に、強力な情報発信手段を持つことになる。それゆえにロイヤルユーザーを多く囲い込むことは、ブランドの成功にとってはとても重要である。
逆に、ロイヤルユーザーが忠誠度を下げて一般ユーザーに戻ってしまえば、ブランドは凋落を始める。そうならないためには、ブランドの魅力を伝え続けることと、上得意客としてなんらかの優遇を行うなどの方法がある。優遇は単に値引きをするなどのいわゆる「サービス」ではなく、むしろブランドの評価を提供者といっしょに引き上げる特別な存在として認め、彼らの自尊心も満足させるようなものであることが望ましい。
また、ブランド・コミュニケーションの章でふれたように、ロイヤルユーザーに「あなただけ」という特別なもてなしをすることは、ロイヤル度を高めるのに効果的だ。百貨店や航空機、クレジットカードなどのポイントサービスなどは、使った分だけポイントがたまってサービスが受けられるという仕組みになっている。これもロイヤル度を高めるのには効果的だ。
2.一般ユーザー
一般ユーザーは購入したことはあるが、他の商品に乗り換える可能性がある移り気なユーザーのことである。一般的には全ユーザーの8割を占めており、人数的にはロイヤルユーザーの数倍もいる。
この一般ユーザーをいかにロイヤルユーザーにするかが、そのブランドが強くなる決め手となる。一般ユーザーが他の商品に乗り換えるということは、そのユーザーにはその商品にしかない特徴や魅力が十分に伝わっていないことを意味している。つまり、一般ユーザーにその商品が他の商品より優れている点を伝えることである。ただし、人の嗜好やニーズは多様化しているので、その商品の特徴がその人にとっては魅力と感じないかもしれない。そのときは、そのユーザーの嗜好やニーズを聞き、それを商品開発に生かすことだ。
ユーザーがどの点に不満を持っているかを知り、その不満を取り除けば、忠誠度は高まるはずだ。このようにユーザーの声に耳を傾け、その満足度を高めて一般ユーザーをロイヤルユーザーに変える。
ユーザーの声を聞くには、投書などを待っていたのでは十分とはいえない。ユーザーが自らの意思で発する情報には好意的なものが多いために、この結果を信じると過大評価につながってしまう。また、自ら文字として伝えられる情報は、その人が持っている感情の数分の一にすぎない。
正確な手法に基づいたアンケート調査などで定量的に調べ、奥歯に引っかかった不満を引き出すような工夫が必要となる。その結果から、その商品の不満や不都合を明らかにし、それを解消するための商品・サービスの改良を検討する。改良によりブランドを傷つけることがないとわかれば、迅速に実施する。こうした努力が強いブランドにつながる要因となるのだ。
3.潜在ユーザー
潜在ユーザーとは、そのブランドの購買対象者でありながら、これまで購入したことがない人のこと。潜在ユーザーがユーザーにならない(購入しない)のは、なにかの理由、つまり最初の購買を妨げる阻害要因がある。そこで、より多くの潜在ユーザーを一般ユーザー、ロイヤルユーザーにシフトさせるために、どのような阻害要因があるかを調べ、それを取り除くための手を打たなければならない。
さて、代表的な阻害要因には以下のものがある。
- 販売している場所がわからない
- 販売している場所が近くにない
- ターゲットが自分ではないと感じ、気がひける
- ターゲットにとって、価格が高すぎると感じられている
- ターゲットの利用シーンに合ったパッケージングがされていない
- 他の商品を使い続けなければならないなんらかの事情がある
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「販売している場所がわからない」「販売している場所が近くにない」に対しては、販売している場所を伝える方法を考える。また、ブランドを傷つける心配がないかどうかを検証しながら、販売店、販売チャネルを増やす努力をする。
「ターゲットが自分ではないと感じ、気がひける」というタイプの潜在ユーザーが多い場合は、ブランドのコンセプト、ターゲットの選定に修正を加えるか、サブブランドを設定して商品ラインナップを増やすなどでブランドを拡張する必要がある場合がある。
たとえば、当初若い女性をターゲットとしたが、消費者のうち中年男性からも価値が認められた。しかしパッケージや販売店が若い女性向きであるため、ほとんどの人が購入に踏み切れない、といった場合が考えられる。その場合は、両方のターゲットを狙った商品としてコンセプトに修正を加えるか、中年男性向けのサブブランドを設定するという対策を検討する。
ただし、これらの対策はそのブランドを傷つける、または破壊してしまう危険も伴うので、実際に対策を打つかどうかはユーザー調査も実施して反応を予測した上で慎重に検討するべきである。ブランドの修正や拡張が適切ではないと判断した場合は、その新しいターゲットは潜在ユーザーのカテゴリーから除外する。
「ターゲットにとって、価格が高すぎると感じられている」というタイプの潜在ユーザーが多い場合は、ブランドのコンセプトとターゲット設定の間に無理があるか、ターゲットに対して価格設定に無理があるかのどちらかが考えられる。前者の場合はコンセプトの再検討が必要。後者の場合は価格を修正することを検討する。ただし、「値下げ」という動きを見せるとブランドを傷つけることにもなりかねないため、商品の内容やパッケージングに若干の修正を行うなどと合わせて手を打つことが望ましい。
「ターゲットの利用シーンに合ったパッケージングがされていない」とは、たとえばファミリー向けの商品であるのに、1梱包当たりの入数が3個であるとか、未婚女性向きの商品であるのに、1梱包に1人で消費期限内に消費し切れない量が入っているなどといったことである。また、贈答に使いたいと考えられながら、パッケージが家庭内消費を前提としたカジュアルなものである、といったケースもある。どんな人にどのように利用されるかのコンセプトを再確認した上で、適切なパッケージングにする必要がある。
「他の商品を使い続けなければならないなんらかの事情がある」とは、競合品にしか利用できない容器を買ってしまったとか、発言力の強い家族が競合品のロイヤルユーザーであるなどといった場合である。それぞれに対策は考えられるが、いずれの場合も競合品そのものを本人が評価しているわけではないので、一般ユーザー、ロイヤルユーザーへのシフトはそれほど難しいわけではない。なんらかのきっかけで、非常に強いロイヤリティを示す可能性もある。
このように、そのブランドの潜在ユーザーがどのような阻害要因を持っているかを調査し、その原因を排除することが、ブランドを反映させるためには重要である。同時に、潜在ユーザーに対しては、まず一度利用してもらえるような手を打つ。これには、最初の購買を妨げる要因を排除すること(後述)の他、商品サンプルを配布したり試用・試食会などを開催したりするなどの方法がある。ただし、当然その最初の利用でよい印象を抱いてもらうことが大切なので、強引な方法や安売りなど、ブランドの価値を下げるような方法は避けなければならない。
また、この阻害要因は常に変化をしている。ブランドに対するユーザーの心理や行動は、全く不動ということは少なく、社会情勢の変化、流行、ユーザーの加齢、当該ブランドや他のブランドの変化(コンセプトやラインナップなど)等を受けて刻々と変わるものと考えた方がよい。
これに対して、根拠なく自分たちのブランドに対する評価は変わっていないはずだと考えたり説明したりすることは、ブランドの破滅にもつながりかねない危険なことだ。自分たちのブランドが実際にどのように評価され、どのような人々に、どのように利用されているか、そしてどの程度満足しているかを定期的に調査、検証することは、ブランド力を維持し高めていくためには不可欠なことである。