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■ 地域ブランド構築法 ■
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第9回:ブランドコミュニケーション
「いかにして農産物のブランドプレミアムを作るか」について前号でご紹介しましたが、今回は作った農作物のブランドの魅力を「いかにして伝えるか」という点、すなわち「ブランドコミュニケーション」についてご説明します。

ある農作物がすばらしい品質で、他の商品と比べて大きな付加価値(プレミアム)があったとします。しかし、その商品のことが全く誰にも知られなければ、その商品の魅力も評判も伝わりません。セリで高値で取引されることもなければ、注文が舞い込むこともありません。結局、その品質が売り上げや利益にはつながらないのです。つまり、ブランド戦略で成功するには、ブランドの魅力を伝えるための「コミュニケーション」が不可欠だということになります。

しかし、だからといって、宣伝や広告などによってブランドの名前を連呼すればいいわけでもありませんし、ポスターを作ればいいわけでもありません。それらは、広告宣伝活動や販売促進活動であって、ブランド戦略における“コミュニケーション”とは違います。

ここでは、消費者との「ブランドコミュニケーション」の効果的な手法の中から4つを紹介します。

(1)ファーストコンタクトは情報が大事

消費者がある農作物に最初に接触をしたとき、つまり「ファーストコンタクト」が行われるのはスーパーや八百屋などの店頭である場合が多いと思われます。このとき、もしも産地や品種などの情報が何もなければ、消費者にはその農産物の「ブランド」は一切伝わりません。消費者は「Aスーパーのトマト」や「B八百屋のいちご」と店舗と品名を組み合わせて覚えることになります。これでは農作物のブランドにはなりません。

しかし売り場で「福岡 豊の香いちご」や「岡山桃太郎トマト」という名前で売られていれば、これらはブランド名として消費者の頭の中にインプットされることになります。ところが、ファーストコンタクトではこの農産物に対して消費者はなにも情報がないため、この時点では「福岡 豊の香」という名前に対しては何もイメージや付加価値は持ち合わせていません。したがって、購入する際には「いったいどんな特徴があるの?」と、それに関する情報を入手しようとするのです。

そこで、その名前と一緒に「無農薬、有機栽培」などという栽培方法や、「みずみずしい甘さ」という特徴が書かれていれば、これらも一緒にインプットされることになります。ファーストコンタクトで「福岡豊の香」という名前だけ書いて店頭で並んでいる場合と、「無農薬で甘い」という情報も添えて並んでいる場合とで、どちらが販売に効果的かは説明するまでもありません。

もちろん、「徹底的な温度管理と、50年間にわたって美味しいイチゴを作り続けた」という栽培方法、あるいは「その昔、江戸時代から・・・」という神話があれば、さらにこの農作物に対する興味は高まるはずです。

恋人を口説き落とすときのように、消費者にいかに魅力を伝えて惚れさせるか・・・。ファーストコンタクトではこうした情報が何より重要なのです。

 

(2)イメージ作りでブランド評価は変わる

消費者が農作物を評価するポイントは、おおむね3つに分類することが出来ます。つまり、大きさ、色、糖度という「スペック(仕様)」と、きれい、おいしそうという「イメージ(印象)」、そして無農薬などの栽培方法、生産者などの「インフォメーション(情報)」です。

スペックは商品を客観的に評価するために指数化されたものであり、そのものが商品(農作物)の価値に反映します。つまり、一般的には大きい方が単価は高く、糖度が高い方が価格は高くなります。こうしたスペックによってその商品の基本的な価値は決められるということです。

ところがイメージというのは感覚的、情緒的なものであって、スペックのように大きい方が高い、甘い方が高いという原則は働きません。「おいしそう」というイメージは人によって感じ方が違うし、それを指標化することが難しいのです。もちろん20%の人が「おいしそう」と感じる商品と、50%の人が「おいしそう」と感じる商品とを比較すれば、後者の方が総合的には評価が高くなる可能性が高いと言えます。さらに、この「おいしそう」というイメージは何も農作物そのものだけで構築されているものではありません。例えばその農作物が汚れたかごに山にして盛られているものと、木の箱にきれいに並べて入っている場合とでは全く印象が違います。農作物そのものの色が引き立つ、新鮮さが伝わるような「演出」によって、同じ商品であっても消費者が受けるイメージは全く異なってしまいます。つまりスペックと違い、イメージはこうした演出によってある程度操作することが可能なのです。

そしてもうひとつの要素が情報ですが、これは前項目ですでに説明してあるとおりです。

(3)ユーザーと会話をしよう

イメージを伝え、そのブランドの情報を提供しても、それは真の「コミュニケーション」をしたことにはなりません。なぜならコミュニケーションとは「双方向で会話をする(情報を交換する)」ことなのだからです。消費者に対して一方的に情報を提供する広告・宣伝や販売促進という行為とは違い、ブランドコミュニケーションとは消費者と会話をしながら、その消費者のロイヤルティ(忠誠心)を高めることが重要なのです。

では、消費者と会話をするとは具体的にどういうことか。

それは、「消費者の声を聞き、それに答える」ということです。商品を購入したユーザーは、実際にそれを食べてみて、品質や味などの「優位性」から、その商品に対する好感・満足などの評価を高めます。そして、その評価を家族や知人などに伝えたり、あるはインターネットなどでその感想を発信したりします。これがファーストコンタクトの際に行うものとは違う、もうひとつの「情報」なのです。

生産者が自ら発信する情報とは違い、第三者である消費者(ユーザー)から発信された情報は他の消費者に強く影響を与えます。もちろん「おいしい」という意見もあれば、逆に「期待はずれだった」という悪い意見もあります。こうした意見が消費者の間で伝染して広がり、商品の購買に大きな影響を与えることが少なくありません。こうした「伝染性」が強いのがブランドコミュニケーションの特徴なのです。

したがって、「ユーザーと会話をする」というのは、このような商品を口にした人の意見に耳を傾けて、そこにもし不満があるようであればその意見を真摯に受け止めて改善するのと同時に、その不満を持っている消費者に対して「大変申し訳ございませんでした」とお詫びをし、その原因を改善する努力をするという約束をして「不満」を小さくすることが重要なのです。

逆にとても満足しているユーザーがいれば、その満足の原因を聞くことで、そのユーザーの満足度はさらに高まります。「おいしい」という評価であれば、そのおいしさの理由を教えてあげれば、そのユーザーは感想と一緒にその理由も伝えてくれます。そうすればそのユーザーの伝染力もますます高まるのです。

 

(4)ニーズを掘り起こそう

さて、ユーザーが例えばトマトを購入するきっかけについて考えます。それは、「サラダを作ろう」と思ったり、あるいは「サンドイッチに入れよう」とか、「スパゲティを作るのにトマトは必要」と思うことです。「サラダを作る」という目的であったとした場合、キュウリやレタスなどの他のサラダの材料と一緒にかごに入れることになります。もちろんトマトだけのサラダもあるかもしれませんが、多くの場合はトマトはあくまで「サラダ」の材料のひとつであることが多いのです。

つまり、消費者が農産物を買おうと考える大きなきっかけは、その調理法を思いつくかということなのです。トマトの消費量(販売量)を増やそうと思ったならば、そのトマトの魅力をいくら語ってもダメだということです。必要なのは消費者に「トマトを食べたい」「トマトを使った料理を作りたい(食べたい)」と思わせることが重要だということなのです。これはトマトに限らず、農作物すべてに共通していることなのです。

テレビもオリンピックやサッカーW杯などがあると販売量は急増します。見たい番組があることが「テレビを買いたい」という気持ちを高めるのです。

ブランドコミュニケーションを行うに当たり、その作物の魅力を語ることが重要かもしれませんが、それと同時に、そのニーズ(需要)を高めることも重要なのです。

【田中章雄 出典:「農業経営者」2005年4月号(農業技術通信社)】


 第10回:ブランドロイヤルティ戦略  



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