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■ 地域ブランド構築法 ■
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第10回:ブランドロイヤルティ戦略
これまでは「いかにして農産物のブランドプレミアムを作るか」(第8回)、「ブランドの魅力をいかにして伝えるか」(第9回)という視点からブランド戦略を説明してきました。今回からは、ブランドを体験した人のロイヤルティ(忠誠)を高めて、ブランドの価値を高める「ブランドロイヤルティ戦略」のポイントを紹介します。

ロイヤルユーザーが8割の利益を生み出す

ブランド戦略を行うときに、自社のブランドのユーザー構成を分析することは不可欠です。その際に、ユーザーを3つに分類してみると分析しやすくなります。

「ロイヤルユーザー」とはその商品や農産物を良く利用する顧客です。その分野の商品・農産物を購入するときにはかならずそのブランドを購入すると決めていて、他ブランドの商品や農産物を購入することはない、という人です。そのブランドに対してとても忠誠心が強く、「ロイヤルユーザー」あるいは「ロイヤルカスタマー」と呼びます。

「一般ユーザー」は、そのブランドの商品や農産物を購入した経験はありますが、時には他のブランドのものを購入することもある人です。彼らは店頭で販売している価格や、キャンペーンなどによって購入するブランドを変える可能性が多く、新製品を目にした際には思わずそれに飛びついてしまうこともあるため、「浮動客」と呼ぶ場合もあります。

「潜在ユーザー」はまだそのブランドを利用したことがないが、将来的には購入する可能性がある人です。企業や生産者としてみればぜひ購入して欲しい人(ターゲットユーザー)であったとしても、なかなかその姿が見えない(捕らえられない)というのが実情です。

ブランドロイヤルティ戦略では、ここで分類した3つのユーザーごとに具体的な戦略を行っていきます。次回からは、その中より4つの戦略ポイントを紹介します。

(1)ロイヤルの人数はブランドの強さに比例する

一般的なブランドの場合、この3つの中で人数が最も少ないのはロイヤルユーザーですが、そのブランドにもっとも多くの利益をもたらすのもロイヤルユーザーです。一般的にはユーザーの2割程度を占めるロイヤルユーザーが、利益では8割を占めているとも言われています。つまり、ロイヤルユーザーの数が多ければそれだけそのブランドがもららす利益が大きいことになります。また、ロイヤルユーザーはその後も商品を購入し続ける可能性が高いため、ロイヤルユーザーが多いブランドは将来的に販売量が大きく落ち込む危険が少なく、売り上げや利益の安定をもたらします。

したがって、ロイヤルユーザーが増えているブランドは、伸びているブランドと言うことができ、逆にロイヤルユーザーが減っているブランドは、衰退しているブランドであるということになります。

(2)ロイヤルユーザーの満足度アップには「あなただけ」を

ロイヤルユーザーの人数が多かったとしても、その顧客満足度(CS)が低い場合には、そのブランドの将来性には黄信号がともります。ロイヤルユーザーといえども、永久にロイヤルであり続けるという保証はありません。もしブランドが彼らの期待に応えられなかった場合には、彼らはロイヤルユーザーから一般ユーザーにステップダウンしてしまう可能性もあるのです。

その半面、ロイヤルユーザーの満足度が高い場合、彼らは家族や知人など、自分の身の回りにいる人たちに、そのブランドの魅力を自分の言葉で伝えようとします。体験に基づいた彼らのこうした言葉は、テレビCMや広告などより説得力があります。この体験談を聞いた人の多くは、そのブランドのファンになる可能性が高いのです。つまり、ロイヤルユーザーの高い満足度は、まだ体感していない他のユーザーに伝染することでユーザー数を増やしていくという効果が期待できるのです。

このように、ロイヤルユーザーの満足度が高いか低いかを測定し、もし満足度が十分に高くないようであればその原因を探り、対策を講じて、満足度を高めることが重要なのです。そして彼らの満足度を高めるのに最も効果的なのは、「パーソナライズ化する」ということです。

消費者は「常連」「限定品」「特別」という言葉に弱いものです。例えばいきつけの飲食店に入ったときに「××さん。いつもご利用いただいている感謝の気持ちを込めて、特別にご用意いたしました。」と言われたら、悪い気がするはずがありません。「あなただけ特別に」という気持ちが、何よりも満足度をアップさせるのです。

(3)一般ユーザーを取り込むには「ここがちがう」

ブランドに多くの利益をもたらすロイヤルユーザーを増やすにはどうすればいいのか。その答えは「一般ユーザーの満足度を高める」ことです。一般のユーザーは特定のブランドを購入することを決めていない人たちです。明日には他のブランドを購入するかもしれません。

ロイヤルユーザーとの違って、一般ユーザーは「比較検討」をするということです。AとBという2つのブランドを見比べて購入しているとすれば、このユーザーはAやBという商品の本当の魅力を十分に認識していないか、あるいはそれらの特徴がこのユーザーには十分な「魅力」として伝わっていないということです。

つまり、一般ユーザーをロイヤルユーザーにするには、他のブランドとの違いを明確に伝えることです。逆に、商品の差別化が伝わらなければ、一般ユーザーは価格の安いほうの商品を購入するに違いありません。つまり価格競争を避けるためにも、他のブランドとどこが違っているかを、わかりやすく、そして印象強く伝えることが重要なのです。

(4)なぜユーザーにならないのか? 阻害要因を見つける

潜在ユーザーは姿が見えにくく、情報も伝えにくいという、非常に厄介なユーザーです。それだけに、ブランド戦略をやる上でついターゲットとして考えるのを忘れてしまいがちです。しかし、ブランドを高めるために最も重要なのは、実はこの潜在ユーザーの声なのです。

彼らがそのブランドを購入していないのには理由(阻害要因)があるはずです。そのブランドに関する情報が届いていないからなのか、あるいは商品の品質に問題があるのか、それとも名前やパッケージなどに問題があるのか。

もし情報が届いていないだけであれば、どんどん告知や宣伝を行えばユーザーが増えるはずです。商品の品質に問題があるなら、その問題となっている品質を改善することは不可欠です。こうした阻害要因を見つけて、それを解決すれば潜在ユーザーは購入する(ユーザーになる)はずなのです。つまり、ブランドを高めるために何をすればいいかという答えは、潜在ユーザーの「不満」の声の中にあるのです。

【田中章雄 出典:「農業経営者」2005年5月号(農業技術通信社)】


 第11回:ブランド戦略は誰が行うのか 



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