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■特集:地域ブランドづくりに新風
  地域ブランドでは、「体験型施設」、「自立支援施設」がいま熱い?

  海外の国際的なコンテストに食品や飲料を出品するメーカーが増えている。審査員の舌をうならせ、受賞の栄誉に与る商品も珍しくない。このハム・ウィンナー、チーズも、おそらくその類のひとつ……と思ったら、トレンドを見誤るかもしれない。実はいずれも、いわゆる食品メーカーの商品ではない。ハム・ウィンナーは、体験型施設を展開し全国的に名が知られるようになった農事組合法人「伊賀の里モクモク手づくりファーム(三重県伊賀市)」の偉業。チーズは、農業を軸に自立支援施設を展開する特定非営利活動法人「共働学舎(北海道上川郡新得町)」のお手柄なのである。

 コンテスト入賞は販促の好材料

モンドセレクション最高金賞受賞の「さくら」。さくら風味、カマンベールタイプのチーズで、彩りに桜の花びらを載せる。90g、682年(税込)
 モクモク手づくりファーム(http://www.moku-moku.com/)は、設立されてすでに20年目になる。昭和63年に最初は手づくりハム工房として10人の有志でスタート。施設のシンボルとして建てたログハウスの「木(モク)」や、ソーセージを燻すときに出る煙の「モクモク」などがネーミングの由来である。

 平成元年には一般向け体験型プログラム「ウィンナー教室」を開講し、話題を呼ぶ。平成7年には、農業・酪農の大規模な体験型テーマパークに拡大しリニューアルオープン。観光バスが立ち寄る観光名所となり、来場者もうなぎのぼりに増えていった。

 現在は、ハムやソーセージのほか、地ビール、パン、お菓子、和菓子、米、野菜、牛乳、豆腐など、多岐にわたる商品を、地元三重県の原料を使いながら手づくりで製造。来場者への直接販売のほか、通販、インターネット販売で、全国の消費者に届ける。また、割引などの特典がある入会金2000円の「モクモクネイチャークラブ」を運営。現在2万9000世帯が加入する。

 体験プログラムも豊富なラインナップを展開。通年開催の「手づくりウィンナー教室」、「石釜で焼くジャージーミルクパン教室」、季節限定の「ジャージー牧場牛乳からつくるチーズケーキ教室(6月)」、「わらびもちづくり教室(7・8月)」などさまざま。無料の「地ビール工房ツアー」、「親子ふれあい乗馬教室」、「ヤギと羊のふれあい学習」、「牛さんのちちしぼり学習」も毎日開催する。さらに、平成17年にオープンした宿泊施設を利用した滞在型プログラムも随時開催。体験型施設としては右に出るものがないほどの充実ぶりなのだ。

通年開催の手づくりウィンナー教室。豚肉とオリジナルスパイスと天然羊腸でボイル生ウィンナーをつくる。料金は2名で3150円(税込)
 その中でもポイントとなるのが、やはり、ハム、ソーセージづくりだろう。原料となる豚は指定農場で飼育。エサはできる限り非遺伝子組み換え操作作物を使用する。定期的に残留抗生物質検査も実施する。その原料を用いて職人が経験とカンを頼りにミンチにして練り上げ、余分な添加物を加えずに製品化する。また、化学調味料や保存料、結着剤、発色剤などの添加物を一切使わない「無21シリーズ」というブランドも販売する。

 それらの丹精込めてつくったハムやソーセージは、冒頭の通り、ドイツのフランクフルトで開催された国際食肉見本市で19個のメダルを獲得。このコンテストは、3年に1度の開催で、出品数は約3000アイテムともいわれる。今年で出品が4回目となるモクモク手づくりファームは、過去最多の受賞数となり、特にハム部門では、受賞メダル数が多い入賞者としてトロフィーも獲得した。

 「こうした受賞歴を広報すると、ハム・ソーセージの売れ行きがよくなる。消費者の方々に品質の高さを伝えるのに、格好の材料になっている」と、モクモク手づくりファームの理事で、施設の責任者を務める松永茂さんは、その効果を指摘する。

 地ビールもハム・ソーセージに負けていない。地ビール工房でつくられる「春うらら」が、平成17年春季全国酒類コンクール国産ビール部門で1位を獲得。平成18年には米ワシントン州シアトルで開催された「ワールド・ビア・カップ2006」において、アメリカンスタイル・ヘーフェヴァイツェン(酵母小麦ビール)部門で見事金賞を受賞した。「春うらら」は、麦芽から一貫してつくり上げる、本格的な地ビール。栄養たっぷりの酵母を濾過せず、熱処理もしない。つまり、生きた酵母がそのまま入っているわけである。

 年間売上高は実に38億円

見た目はまるでトマト。この日本的情緒を感じる控え目な赤が実に料理に映えるのである。
 モクモク手づくりファームでは、そのほか施設外でレストランも経営する。第1号店は四日市市の「SaRaRa」で、平成14年にオープン。その後鈴鹿市、松坂市、名古屋市などに相次いで店舗を構え、現在合計6店舗。特に名古屋市のレストラン「風の葡萄」は、栄区の人気ファッションビル「ラシック」に入居していることもあり、大繁盛しているという。月商3000万円というから、相当な稼ぎ頭だ。

 さらに、平成19年秋からは、都会人に農業のあるライフスタイルを提案するために「農学舎」を開校。農学舎では、施設内の農地を150区画に分けて一般向けに有料で開放。クラブハウスも建設し、利用者がサークル活動など推進するための交流の場とする。農業初心者でも施設のスタッフが講習などを開きサポートしてくれるので、安心して参加できる。ターゲットは、自然回帰志向の強い「団塊の世代」だ。

 モクモク手づくりファームの平成18年度の年間売上高は約38億円。そのうち施設内が約16億円、通販やレストランなど施設外の売上げが約22億円となっている。また、年間の施設への有料入園者数は約35万人。入園せずに買い物だけする訪問者を加えると実に50万人が訪れるという。実に堂々たる数字である。商品の売上げでも、集客力でも、完全に地域ブランドの核となっていることがわかる。「今後も日本の農業の新しい方向性を提案し、新たな価値を生み出していきたいですね。そして、美味しく、安心できるものづくりを続けられたらいいと思っています」と、謙虚ながらも力強く語る松永さん。

 自然や手づくりにこだわり、体験型施設を通じた教育にも力を入れる。続々と展開される新しい試みがブランドを生み、ビジネスとしても成立する。そんな、従来にない新しい地域活性化の姿がモクモク手づくりファームの活動から読み取れるのである。

 不登校、ひきこもりの施設からの挑戦

共働学舎のコミュニティスペース「ミンタル」。販売、飲食のほか、チーズやバターづくりが楽しめる
 一方、共働学舎(http://www.kyodogakusya.or.jp/)は、モクモク手づくりファームとは趣が異なる。昭和49年に創立者である宮嶋真一郎さんが、故郷の長野県北安曇郡小谷村で「共働学舎」を開いたのが発端である。宮嶋さんはそれまで31年間にわたり続けてきた教職を辞めて、不登校やひきこもりなど、本当に教育を必要としている子供たちのための施設の建設に動いたのだ。

 それから30年以上の月日が経ち、現在、共働学舎は、長野県小谷村、北海道(留萌郡小平町寧楽、上川郡新得町など)、東京の3地域に施設を持ち、約150人が共同生活を送っている。

 そのうち新得町にある「新得共働学舎(http://www.kyodogakusha.org/)」の代表を務めるのが、宮嶋望さん。創立者の長男である。高校卒業後、米ウイスコンシン州立大学で酪農学を学び、帰国後の昭和53年に新得共働学舎を設立した。望さんには設立にあたり、1つのポリシーを胸に刻んだ。

 「父は寄付で運営費を捻出していましたが、私は施設で作ったものを売って、ビジネスとしてしっかり経営することで成り立たせたかった。そこで出た利益は生産施設の建設に投資するなど、事業の拡大にも力を入れたかったんです」。

 寄付依存から独立採算制へ。こうした自立支援施設にとっては非常に高いハードルである。しかし、望さんは果敢に挑んだ。牛を飼い、搾ったミルクからチーズやバターなどの乳製品をつくる。野菜づくりやパンづくりなども積極的に進めた。1億円以上の巨費を投じて、チーズ工房も建設した。施設内には観光客のための飲食スペースをつくり、バター、チーズ、パンなどの手づくり教室も開催するようになった。そこでは、不登校、ひきこもりなどの子供のほか、身体の不自由な人、心の病を抱えた社会人などが共に暮らし、共に働いたのである。

 イタリア人の災い、転じて“最高金賞”に

熟成庫でゆっくりと時間を重ねていくチーズ。ここから世界も認める逸品が巣立っていくのだ
 そして、平成15年、フランスで開催された「第2回山チーズのオリンピック」に、自慢のチーズ工房でつくったカマンベールタイプのチーズ「さくら」を出品する。さくらの葉を使って風味をつけたもので、さくらの香りがほのかに漂う、クセのないさっぱりとした味のチーズである。それが、ふたを開けてみれば、いきなりの銀メダル受賞。平成16年にスイスで開かれた第3回大会にも出品し、今度は金メダルを獲得した。

 さらに平成17年の第4回イタリア大会にも出品する。しかし、そこで事件が起きた。イタリアの大会関係者が会場に届いた「さくら」を、1週間もの間気温の高い建物の中に放置したため、腐らせてしまったのだ。これでは審査員も評価のしようがない。3年連続メダル受賞の夢はあっけなくついえた。

 その報告を聞いた望さんは、新たに「さくら」を携えて、空路現地に乗り込む。大会関係者は、「ここまで来て手ぶらで帰すことはできない」と、「さくら」に特別に「国際賞」を与えるとともに、無料で展示ブースを用意。それだけでなく、欧州各国のチーズのブローカーを紹介してくれたのである。

 それがひとつの転機となる。「ブースはたちまち黒山の人だかりになったんです。その中でも特に熱心に『さくら』の味を確かめていたのが、ベルギーのブローカーでした」。

 その後、ほどなくして一通の招待状が望さんの手元に届いた。それは、ベルギーで毎年開催される世界で最も権威のある食品や酒類の品評会「モンドセレクション」の招待状だった。

 望さんは、翌年の平成18年、迷わず「さくら」を出品する。審査員の評価は高く、初出品ながら見事金賞に輝く。続けて平成19年にも出品。すると今度は最も高い評価である、最高金賞を受賞したのである。イタリア人が腐らせてしまったことが、結果的に世界最高の栄誉につながる。これは、まさに「運命のいたずら」としか言いようがない。

 「さくら」は毎年2月〜6月の限定販売商品だが、今年は予約が殺到し、期間中につくられる2万8000個は早々に完売してしまった。まさに“最高金賞効果”といえるだろう。

 現在メインのチーズ作りだけで、年間9600万円の売上げを誇る。そのほか、牛乳や野菜、肉などの売上げで何とか経営を成り立たせているが、「もっと売上げを出せる商品がほしい」というのが望さんの本音だ。「さくら」に続く、第2、第3のヒットブランドを生み出すことが当面の課題となろう。

 カギは付加価値と第三者評価

新得共働学舎では、さまざまなチーズを生産。中央の緑色の笹が載るチーズ「笹ゆき」も、実は「さくら」とともに最高金賞を受賞している
 単に特徴のないハムやソーセージを売る。大手メーカーと同じようなチーズを作って売る。それで、確かに一定の売上げにはつながるかもしれない。しかし、もうワンランク上の本格的な「ビジネス」として成立させるのは難しい。

 やはり、付加価値があり、差別化できる商品に仕立て上げ、競争力を強化し、市場で高値で取引されるようなものに“脱皮”させることが必要となる。さらに、仕上げとして第三者からのお墨付きをもらい、「ブランド化」ができれば、より高収益が望めるようになる。

 そんな大手の食品・飲料メーカーが推進するようなブランド戦略を、地域に根差した体験型施設や自立支援施設が取り入れ始めている。これは、注目すべき新しい動きだ。地域ブランドの担い手も多様化しつつある昨今、それらの動きに期待を寄せるだけでなく、行政や関連団体などがしっかりとサポートしていくことも、今後、重要となってくるだろう。

 

2007年7月29日


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