この新品種は、農学博士の岡本大作氏が、北海道大学農学部発のベンチャー企業として平成15年に設立した「植物育種研究所」で研究されていた品種をベースに、地元農家と共同開発したものである。平成18年に全国展開プロジェクトに採択され、資金面などの支援を受けながら、収穫された30トンのさらさらレッドを全国各地で試験販売した。販売店は、大丸札幌店、三越札幌店、旭川西武、三越東京都内全店、大丸心斎橋本店、大丸京都店など全国各地の大手百貨店が中心。一玉150〜180円と、一般的なタマネギの約3倍の高値にも関わらず、各地で完売し、消費者の健康への関心の高さが浮き彫りになる結果となった。
今後の取り組みを栗山町商工会議所では、次のように話す。「まず現在9軒にとどまっている生産委託農家を増やし、生産量・流通量を上げること。そして、大手食品メーカーと共同開発している、機能性成分に着目した健康加工食品の販売に漕ぎ着けることです。そうしたことを通じて、町の雇用確保にもつなげていきたいと考えています」。
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りんご豚まんは、スキーシーズンが到来する前の9月ごろから作り始め、冷凍保存する |
「豚まん」という人気の“ファーストフード”がある。元々は神戸が発祥の地といわれているが、今や日本全国に広まっている。横浜中華街でも、そこかしこで湯気がもうもうと立つ中販売され、人気店には長蛇の列が絶えない。
その豚まんにりんごを入れたら? 長野県北部、新潟県との県境に位置する飯山市では、そんな斬新な発想のもと、地元信州のリンゴを使って開発された「りんご豚まん」を販売している。
「中華料理の酢豚は豚肉とパイナップルの組み合わせ。それと同様のアプローチです。これが甘辛くて結構イケるんです」(飯山商工会議所)。
地場のレジャースポットである戸狩温泉スキー場で、シーズン中(11月〜翌年4月)に限定して販売。同スキー場のレストランや民宿では、地元産のブランド豚「みゆきポーク」と信州りんごを使って煮込んだ「戸狩のりんご豚」という名物料理を提供し、人気を博していたが、その豚まん版をスキー場で販売したところ、これが若者を中心にヒット。その味を全国に向けてアピールしていこうと、全国展開プロジェクトに応募し、採択された。
実は従来のりんご豚まんに、提供する地元では少々後ろめたさを感じていた。「豚まんの生産施設がないため、原材料を関東の工場に送り、そこで加工されたものをスキー場で蒸かして販売していました。だから、純粋に地元で作ったものとはいえなかった。そこで、まずは地元で製造する試みから着手しました」。
借り出されたのは、地元の民宿を切り盛りする女将たち。夏のオフシーズンに大量に作って急速冷凍し、冬に蒸かして販売するという段取りが組まれた。しかし、豚まんづくりは一筋縄ではいかなかった。最大の難関は饅頭皮。長野名物のおやきのように小麦粉を練って蒸かして焼くだけという簡単なレシピではなく、パンと同様に一次発酵、二次発酵が必要という極めてハードルの高いものだった。
「それを冷凍して、また蒸かすというわけですからさらに難しい。最初は皮の味も悪く、見た目も不恰好でした」。
そこで、担い手たちはひとつの決断を下す。大手製パン会社の元工場長を招聘し、徹底した技術指導を仰いだのだ。作り方の違いは歴然だった。パン作りにおいて大切なのは温度管理。その日の気温に合わせて、使用する水の温度、小麦粉の温度、食材の温度、調理室の温度などを細かく調整することが鉄則だった。改めて温度管理の乱数表を作成し、りんご豚まんを試作する。すると、従前のものとは全く異なるふっくらして形のよいものができた。地元民によるりんご豚まんの完成である。
平成18年度のシーズンには、その試作品を9000個用意。1日250個の限定販売で提供すると、ほぼ毎日完売するほどの売れ行きを見せた。正真正銘の地元産りんご豚まんは、観光客の心をがっちりつかんだのである。
平成19年度のシーズンは、冬が到来する前の10月に東京・亀有のイトーヨーカドーで1週間りんご豚まんのPR販売を実施する。「戸狩温泉スキー場では、全国的にスキー人口が減る中、来場客は減少せず、少しアップする年もある。りんご豚まんがスキー場を訪れる動機付けに少しでも貢献できればと思っています」。
宇宙育ちの酵母を使った門外不出の日本酒
土佐宇宙酒 高知商工会議所(高知)
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一堂に会した土佐宇宙酒。土佐の酒どころの純米吟醸酒なので、旨さは折り紙つき。飲みすぎて宇宙酔いに注意? |
まるで宇宙空間を彷彿させるような濃紺のビン。ラベルには地球が描かれ、商品名が大胆に踊る。外見は従来の日本酒とは一線を画する、まさにロマン溢れるイメージ。これこそ、南国・高知が生んだ、異色の日本酒「土佐宇宙酒」である。
この何ともスケールの大きい日本酒の開発計画が本格的に動き出したのは、およそ2年前。平成17年10月1日の「日本酒の日」である。高知県産の日本酒酵母12種がロシアのソユーズロケットに搭載され、宇宙空間に向けて旅立った。その後、宇宙ステーションで約8日間滞在し、11日に無事地球に帰還。高知県内の18社の蔵元に分け与えられ、各社で仕込みが始まった。
宇宙空間を旅した酵母は2タイプ。ドライ酵母とウェット酵母である。前者は休眠状態だったため、大きな影響を受けずに帰還。安全面で問題がないと判断され、帰還直後の第1弾宇宙酒の酵母として使われた。そして、翌平成18年4月に各社から一斉発売され、話題を呼んだのである。
一方、後者は25℃に保たれた容器の中、元気な状態で宇宙を旅し、増殖して帰還。工業試験場で1年間にわたり問題性の有無などを研究した後に第2弾宇宙酒の酵母として採用され、平成19年3月に、発売に漕ぎ着けた。ウェット酵母のほうが宇宙空間での影響をより大きく受けていると推定される。そのため各社は宇宙酒の「本命」とうたい、現在大々的に売り出しているのだ。
土佐宇宙酒には明確な5つの認定基準がある。
@酵母は宇宙を旅した後の高知県産酵母6種類の中から選択していること。
A原料米は高知県産酒造好適米「吟の夢」または「風鳴子」を100%使用していること。
B精米歩合は55%以下であること。
C造りは米100%で、低温長期発酵の吟醸造りを行った純米吟醸酒であること。
D香味が「土佐宇宙審査会」の官能審査に合格したもの。
この5点をクリアしたもののみが、土佐宇宙酒と認定され、商品に認定シールを張ることを許可されることとなる。
高知商工会議所と蔵元各社は、この厳しい基準に合格した宇宙酒を携え、全国展開プロジェクトの支援金を活用したPRイベントの開催、出展なども進めている。平成18年10月には大阪に乗り込み、「大阪食品・飲料見本市」に出展。11月には、東京で「世界初の宇宙酒と土佐酒を楽しむ会」を開催。県内の全蔵元が参加し、首都圏のバイヤーに対して、宇宙酒などを積極的に売り込んだ。「最高級の酒造米を使い、最高の工程管理でつくった純米吟醸酒なので、味も格別に美味しいです。今後は日本国内だけでなく、世界の市場に売り込みをかけていきたい」と、高知商工会議所では意気込みを語る。
「もみじ饅頭」の後に続く“名産スイーツ”を目指す
宮島アントチーズ 廿日市商工会議所(広島)
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「神の島」ともいわれる宮島の荘厳な雰囲気が漂う木箱のパッケージと宮島御砂焼の容器。まさに手みやげにピッタリのスイーツだ |
宮島の土産物として、全国区の知名度を誇る「もみじ饅頭」。明治時代に伊藤博文が考案したという伝説も残るこの銘菓は、誕生からすでに100年の月日が流れた。宮島ではこの節目の時期に、もみじ饅頭を手本とし、この名産品に勝るとも劣らない、新しいスイーツの開発を目指すプロジェクトが立ち上げる。その名も「宮島/廿日市手みやげ開発プロジェクト」。今から2年前にあたる平成17年、その計画は静かに始動した。
「地元を代表するスイーツは、地元民の手で作る」。そのかけ声のもと、地場の和菓子店、洋菓子店の経営者や職人たちが結集する。創業70年のもみじ饅頭の製造元、100年以上の歴史を誇る和菓子屋の4代目、ドイツ菓子マイスターの資格を持つ職人など、そうそうたるメンバー。これに、時代感覚に敏感な地元の女子大生も加わり、今までにないスイーツを開発するプロジェクトが着々と進められた。
月1回ペースのミーティングは計15回以上にも及んだ。試作品をつくり、試食し、議論を重ねて改良して、また試作品をつくる。菓子職人たちはありったけの技とアイデアを注ぎ、経営者や女子大生も真剣にそれを受け止めた。
そして、1年以上にわたり試行錯誤が繰り返された結果、平成18年9月、ついに完成のときを迎える。名称は「宮島アントチーズ」。和菓子の代表的な素材である「あん」と洋菓子を代表する素材の「チーズ」を使った和洋折衷のスイーツで、その素材名の語呂の良さを利用し、そのまま商品名とした。もみじ饅頭はあんとスポンジというこれも和洋折衷の組み合わせ。それに通じる発想により、100年後に新たな銘菓が生まれたのだ。
あんは、高価な備中産白小豆のつぶあん、チーズは、オーストラリア産の厳選されたもの。それらに加え、廿日市が日本最初の生産地といわれる無花果と、市の木に選定されている桜にちなんだサワーチェリーのピューレを使用。上品な甘みと酸味が口の中いっぱいに広がる逸品である。
宮島の荘厳な雰囲気やプレミアム感を醸し出すために、パッケージや器の開発にも力を入れた。商品を入れるパッケージには木箱を採用。スイーツの入れ物には、江戸時代から続き広島県の伝統的工芸品にも指定されている宮島御砂焼を使用した。外見も中身も、徹底してグレード感にこだわったのだ。
高級感を追求したため、価格は3個入りで4200円と、高価な土産物となった。それにも関わらず、完成から1ヵ月後の10月に開始した公式ホームページ(http://www.net-walk.jp/~antocheese/)でのインターネット限定販売では、毎月予想を上回るペースで完売を重ね、現在まで約400セットが販売されている。
「今後は木箱や御砂焼を使用しない、廉価版も発売する予定。4個入りで1575円という価格設定の予定です」と、廿日市商工会議所は話す。地元に訪れた観光客が気軽に買えるように、店頭販売も開始する予定としている。また、現在は開発に携わった4人の職人が手分けして製造しているが、この作り手を増やすことも課題である。「将来的には『もみじ饅頭』のように、多くの店で作られ、店舗ごとに味が違うといった、バラエティに富んだスイーツに仕立てていきたい」。
全国展開プロジェクトの支援を活用したPRイベントにも注力。宮島駅前や廿日市商工会議所などで、アンケート試食を3回実施し、計2070食を配布した。商品の特異性から、マスコミにも数多く取り上げられた。しかし、まだ県外での知名度は充分とはいえない。今後は、全国への販路拡大や、全国規模でのマスコミへの露出の推進も課題となってくる。