地域団体商標
 
 

 

 

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田中の地域ブランドニュース解析



■商標を取るだけでは、ブランド構築にはつながらない
    地域団体商標を活用した地域ブランドの構築への指針と警鐘
 


  4月の商標法改正を目前に、いま全国各地で地域ブランドの商標(地域団体商標)への取り組みが盛んになってきていますが、自治体はこの制度をいかに活用し、地域活性化に結びつけるにはどうすべきなのでしょうか。
 地域団体商標を申請できるのは、組合法によって設立された組合とされています。つまり、地方自治体は直接には地域団体商標を申請することはできないのです。しかし、自治体はこの地域団体商標の申請・登録を地元の農協や漁協、商工組合などに働きかけて、その組合を活性化させることはできます。その組合が活性化されれば、それに加盟している業者や業界も活性化され、最終的には地域の活性化につながるという効果が期待できるというわけです。
 しかし、商標を申請するにもコストはかかります。こうした負担に見合うだけのメリットが地元の組合および自治体になければ、いくら自治体が商標の登録を呼びかけても、組合が重い腰を上げて実際に商標登録をするまでには至らないでしょう。では、商標登録を地域の利益に結びつけるための方策とは、また、その際の課題とは何でしょうか。


地域ブランド商標のメリット
@地域名をつけた商品やサービスを、「ニセモノ」から守る
A地域の業者や業界の「地域ブランド」に対する意識を高める
B品質やイメージなどを管理し、定義やルールを明確にする
C新たな地域のシンボルに結びつけ、地域を活性化する  

ニセモノ排除にチェック体制が重要
 地域ブランド商標を登録するメリットは主なものだけでも4つあります。ひとつは地域名を付けた商品やサービスを、他地域や諸外国による「ニセモノ」から守るということ。この目的については出願を予定・検討している多くの地域が第一の理由に挙げています。例えば「道後温泉」の温泉を使用していないにもかかわらず、「道後」を名のるホテルや入浴施設が都内や松山市内にありました。そこで道後温泉組合は「道後温泉」を地域団体商標に登録することで、このような消費者を混乱させる表記をできないようにして、ブランド力の低下を防ぐ、というような狙いです。
 このように地域ブランドを商標登録することで、地域以外の第三者がその地域の名称を勝手に使用して地域ブランドの評価が低下することや、本来得られるはずだった利益の目減りを防ぐことにつながります。
 しかし、この目的は、仮に登録された商標が不当に利用されていないかを監視する組織があってこそ意味があります。特に商品の場合には一見してもニセモノと判断できないような精巧なものが流通する可能性があります。つまり、本物であることが一目でわかるような工夫が必要なのです。固体番号によるトレーサビリティなどはこうしたニセモノの流通をしにくくし、それが本物であるか否かを簡単にチェックできる仕組みとしても利用できます。あるいは、袋にホログラム(立体印刷)などのような簡単にはコピーできないような仕掛けを施すことも効果的です。
 すでに一定の知名度を得ている人気商品や、付加価値の高い商品、市場性の高い商品であれば、商標登録により価値の目減りを防御することが不可欠です。しかし、多くの地域ブランドにおいては、このような仕組みを構築することは、システム構築や運営にコストがかかるだけに、管理体制も含めて投資に見合うだけの効果が得られるか否かを検証し、最も効果的な管理方法を構築することも必要です。  

商標を契機に事業者の意欲を高める
 二つめのメリットは、商標出願を契機に、地域の業者や業界の「地域ブランド」に対する意識を高めるということ。地域ブランドへの取り組みとは、地元にある魅力的な素材と消費者のニーズとをつなぎ、その地域にしかない特産品を作ることで、それをきっかけに地域の活性化を図ろうという取り組みにほかなりません。
 多くの地域では、商品開発や販売、情報発信などにおいて、商品や事業者の視点(プロダクツアウト)ばかりにとらわれ、消費者の視点(マーケットイン)が欠如していることが少なくありません。しかし、今日のように商品があふれている時代には、消費者から支持が得られなければ競争の勝ち抜くことはできません。商標を取るのを契機に、マーケットインの発送を取り入れた地域ブランドのコンセプトを明確にし、商品自体の活性化に結びつけるという視点から地域ブランドを考える必要があります。
 要は、単に「商標を取る」ことを目的とするのではなく、「商標を取る価値のある商品にする」ことを目的とするのです。このような目的のために商標をどのように活用し、地域ブランドの戦略立案に取り組むのであれば、地域経済にとって大きな効果をもたらすのは間違いないでしょう。  

品質管理とニーズ取り込む新たな提案
 三つめのメリットは 品質やイメージなどの「管理」を明確にできるようになることです。商標登録を目指している地域の中でも、その商品の定義やルールがあいまいになっているところが少なくありません。例えば石川県の九谷焼は、本来、久谷地方の土で素焼きをし、それに職人が模様を手描きし、上薬を塗って焼いたものが九谷焼と呼ばれていました。ところが、こうした伝統工芸品の技法では皿1枚が数万円という高額なものになってしまい、市場性はほとんど失われてしまったのです。そこで、海外や他の地域で素焼きされた安い素材のものを購入し、それに絵を付けて販売する廉価商品が多く出回っているのが原稿です。
 本来の九谷焼を作る職人とすれば、従来の工法ですべての工程を久谷地方で行ったものだけを「九谷焼」と呼ぶことを主張します。しかし、すでに廉価品の九谷焼を扱っている卸・問屋にとってみれば、高額な「九谷焼」以外はその名称が使えなくなってしまうということになれば、今ある市場の大半を失うことになってしまいます。そのため、地元では両者の議論がかみ合わず、九谷焼の定義が明確になっていないのです。こうした状態では、地域団体商標の取得には至らない可能性が高いでしょう。
 これは九谷焼だけの問題ではありません。佐賀県の有田焼など日本中の多くの産地で同様の問題を抱えているのが現状だ。定義があいまいな商品が、消費者から高い評価を得ることなどありえません。かといって、頑なに古来の製法を守り続けていたのでは、消費者の嗜好の変化や時代の流れに取り残され、市場から見放されてしまいます。商標と発明とは表裏一体。高い品質を保ちながら、消費者のニーズを取り入れて、新たな提案をしていく姿勢が必要です。地域団体商標のスタートをきっかけに、こうした議論や取り組みが真剣に行われるのであれば、地域の産地にとっての意義は大きいといえるでしょう。

地域の新たなシンボルに
 そして最後の四つめが、地域ブランド商標を契機に、新たに地域のシンボルを作り出すことにつながるというものです。例えば、串本町では地域の特産品であるトビウオを題材にした地域ブランドを構築しようとしています。地域名を冠した商品をその地域のシンボルに仕立て、その地域を消費者にイメージしやすいようにするという構図の典型です。
 全国的には知名度が高くない地域にとって、その地域の認知度やイメージを直接高めるというのは容易ではありません。そこで、農産物や食品、観光イベントなどをきっかけにして、その地域の認知度やイメージを高めていくのが地域ブランド商品を活用したブランド戦略なのです。
 こうした動きはいま全国で活発になっています。その地域に由来する大小さまざまな「ブランドの種」を探し出し、それを地域のブランドシンボルとしてなんとか育て上げようという動きです。ただし、そのシンボルがその地域のイメージと異なっていたのではなんの意味もありません。地域の魅力を具現化したものであれば、ヒット商品⇒地域イメージアップという連鎖につながるでしょう。逆に、地域のイメージや他の商品、産業、観光などとの結びつきが弱ければ、たとえ一時的にヒット商品が生まれたとしても、地域経済の活性化という連鎖は途切れてしまいます。
 地域ブランド商品の代表格、関あじ・関さばは地元の通りを「関あじ・関さば通り」に名前を変え、毎週第三土曜日には「佐賀関朝市」を行い、「関あじ・関さば祭り」が開かれ、「関の漁場」という漁協直営のレストランが運営されています。「関さばふりかけ」などの関連商品も開発されています。単に魚という商品だけで終わるのではなく、それを観光や飲食、食品加工などに応用した商品やサービスを開発していけば、地域への貢献度も高まっていくのです。

商標出願だけでは終わらない
 とはいえ、商標さえ出願すればよいというものでもありません。出願すれば地域が新聞などのメディアに取り上げられ、その地域が有名になるほど世の中は甘くはないのです。今年4月1日には日本中で約300を超える商標が出願されると予測されています。つまり、日本全国で見れば300分の1にすぎないのです。さらに、将来的に出願の可能性のある予備軍は約3000あると見られています。他の多くの商標の中に埋もれてしまい、話題にすらならない可能性もあるということです。
 現在地域団体商標の取得を考えている地域は、その商標は何のために取るのかを、出願の前に今一度真剣に考えてみる必要があるでしょう。前述の商標登録の4つのメリットに照らし合わせて、その目的を明確にすることが必要です。そして、その目的ごとにどのように地域ブランドを構築・管理すれば最も価値が最大化されるかを考える必要があります。さらに、そこに目標値を設定し、それをマイルストーンとして毎年戦略を見直す必要もあります。目標をクリアしていないようであれば、どのような課題があり、それを解決するためにはどのようなアクションプランが必要かを考えるのです。
 もちろん、地元だけでこうした戦略の立案や評価はできるものではないし、内部だけの視点では消費者ニーズを見失って、正しい方向には進まない可能性もあります。経験のある第三者、そして消費者視点での調査などにより、論理的かつ機能的に行うことが重要でしょう。
 また、商標は取るより管理することが需要であることを肝に銘じておく必要があります。商標をうまく管理できなければ価値にはつながりません。つまり、商標出願をする前に@商標を管理する組織や体制、A商標のルールや定義、B商標使用の審査基準、Cニセモノや違反品のチェック体制、D商標のトーン&マナー、E出願や管理の費用とその徴収方法など、あらかじめ準備しておくことはたくさんあるのです。

商標の管理に必要な事項 
@商標を管理する組織や体制 
A商標のルールや定義 
B商標使用の審査基準 
Cニセモノや違反品のチェック体制 
D商標のトーン&マナー 
E出願や管理の費用とその徴収方法 


 こうした管理が正しく行われ、各目的ごとの目標値が達成されるようであれば、地域ブランド商標はその地域や自治体、事業者に莫大な利益を導くことは間違いありません。

2006年3月4日

ブランド総合研究所 代表取締役   田中 章雄

Right Now!」 2006年4月号掲載の原稿より 

 


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