地域団体商標
 
 

 

 

Google ホームへ

tiiki.jpを検索
ネット検索
 

このサイトは、BRI ブランド総合研究所が運営しています<会社情報> お問い合わせは専用フォームでお寄せください


■「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」
  「決して桜えびブランドの商標争いをしているのではない」
 

由比桜えび商工業協同組合代表、安部亥太郎氏に聞く


 4月に商標法が改正され、地域団体商標は5月16日において429件の申請がされたように、地域ブランドに注目が集っている。
 その中でも、日本においては静岡県の駿河湾でしか獲れない「桜えび」は魅力ある地域ブランドとして関心が高い。この桜えびに関して、「日本一桜えびの町」を掲げる由比町を中心に地域ブランド化が進められている。
 また、この桜えびは「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」の地域団体商標で申請され、新聞等では商標争いの報道もあった。今回その実態を知るべく、桜えびブランドの中心人物である由比桜えび商工業協同組合代表、阿部亥太郎氏を訪ねて話を聞いた。

桜えび(上)と、いっぱいに敷き詰められた情景(下)

■「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」という二つの桜えびブランドで、商標争いをしているような報道がありました。

 地域団体商標出願団体については以下のような共同出願になっています。

「由比桜えび」
・ 由比町桜海老商工業協同組合
・ 由比港漁業協同組合

「駿河湾桜えび」
・ 由比町桜海老商工業協同組合
・ 蒲原町桜海老商業協同組合
・ 大井川桜海老商業協同組合

  出願に際し、「駿河湾桜えび」を出願した団体から商標争いや商標の独占に関し異議がありましたが、実際のところ由比町桜えび商工業協同組合は2つの商標を用いようと考えてい ます。 地域ブランドは商標の取得だけを目的としているのではなく、桜えびそのものの全国的ブランドの確立と、「安心」「安全」な商品を消費者に提供するための基盤づくりを目指すために取り組んでい る からです。

■「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」の違いや、ブランドの使用について教えてください。 

 駿河湾で獲れた全ての桜えびを表示できるものを「駿河湾桜えび」とし、その中でも規格を設けた桜えびを「由比桜えび」と呼びます。日本の駿河湾でしか取れない桜えびであるが、台湾でも桜えびは取れる のです。しかし、台湾産の桜えびに比べると、駿河湾産の桜えびのほうが品質は良い。その台湾産の桜えびが駿河湾産の桜えびとして売られている現状があります。また、消費者の中には桜えびと小エビの区別が付かないということもあり、そのような台湾産桜えびや小エビとの仕分けも含め、「駿河湾桜えび」は産地表示的意味合いが強いのです。桜えびの加工業者は由比町・蒲原町・大井川町にあり、その地域で生産された桜えびは「駿河湾桜えび」として表示することが可能です。

 一方「由比桜えび」については、現段階において『駿河湾由比港で水揚げされた良鮮度の桜えびを由比港漁業協同組合買受人が製造加工し、由比町桜海老商工業協同組合の作成した品質基準を満たしている製品』と定義し、以下のような規格を備え管理していく方向で検討してい ます。次に挙げるのがその品質基準案です。

「由比桜えび」の品質基準(案)

素干しえび
無着色、無添加、水分含量19%以下、色つや光沢の有る物、丁寧な不純物の除去がされている品

釜揚げえび
無着色はもちろん塩度4.5度以下で煮沸する、煮揚げて水切りした状態

生冷凍桜えび:
特に注意を払い鮮度の良いものを使用する、適した洗浄、減菌方法を行う
 

  しかし、駿河湾桜えびに規格が無いからといって、決して「駿河湾桜えび」が悪いというものではありません。それぞれの業者が個々のブランドで駿河湾産桜えびの良い製品を生産しているからです。「由比桜えび」とは、「駿河湾桜えび」に品質基準を設けた高級品、「駿河湾桜えび」の中でもいいものしかない桜えびといったイメージを分かりやすく消費者に伝えるコミュニケーション手段なのです。

品質管理などブランドに対する意識について教えてください。

 組合員のブランドに対する意識は高いです。去年の6月ぐらいから月に1回か2回は会合を重ねてきました。由比桜えびの基準を作るにも、文章にしてしまえばこれだけですが、ここに至るまでたくさんの会合・議論を重ねてきました。やはり、個々の業者で考え方は違うので、例えば無着色や着色ありに関して、無着色に統一するにも、着色をメインとする業者もあります。そのような調整に、今後は自然食品のものとして売り出していこうと道筋をつくるにもかなりの議論が必要でした。

 水分の基準に関しても水分検査する機械を持っている業者と持っていない業者があるので、組合で一つ機械を買って、いつでも自由にチェックできる体制を整えました。今まで職人の勘に頼って水分の数値を知らなかった業者もここで、自分の桜えびの水分が何%か分かるようになりました。今後もさらに桜えびに関する研究を進め、それぞれの組合員の技術交流を図ります。例えば洗浄・殺菌に優れた技術を持つ業者のような、各組合員の独自技術を交流することで、組合員全体の加工技術は向上し、さらに良い桜えびの製品開発に繋がります。それに「由比桜えび」の商標が加われば売りやすいということになれば、それに向けてさらにいいものを作ろうと思うようになるでしょう。

■今回、地域団体商標の出願をしました。

 地域団体商標の登録要件として、隣接県における周知性があり、周知性を示すものとしては実績が大事になります。「由比桜えび」に関してはお歳暮等に認証シールを貼り、そのシールを貼ったものを一人当たり1000枚から2000枚程度、どの地域にどれだけ発送したかというデータを集計し、その実績を特許庁に資料として提出しました。また、毎年5月3日に行われる「由比桜えび祭り」では、今年は4万から4万5000人近くが集り、年々集客を増やし、周知性を得てきたと確信があります。

 テレビの取材も増えてきて、今までは関東中心で したが、最近は関西のメディアでも多く取り上げられるようになりました。「駿河湾桜えび」に関しては台湾産との産地表示的意味合いが強いため、「由比桜えび」のような主だったPRはしていない。しかし、桜えびは他県には無い産物であるため、全国の食の催し物やイベントといったものには必ずといっていいほど出しています。そのような場で「駿河湾桜えび」のPRは行われてきましたた。商標登録される可能性は高いと考えています。

■「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」の今後について教えてください。

 現在、由比町では新しく衛生管理型漁港を建設していますあ。もちろん現在使用している漁港も衛生管理には注意して作業が行われています。衛生面にさらに配慮することで安心安全な桜えびとして付加価値を高めていきます。最近は生の桜えびの出荷が多くなっていることもあり、衛生面は注意して取り組まなければならない課題です。

 現在では「由比桜えび」の商標は由比町桜えび商工業協同組合と由比港漁業協同組合の協同出願となっているが、商標の独占の意図はありません。「駿河湾桜えび」が由比・蒲原・大井川の協同組合3組の共同出願となっているように、「由比桜えび」も将来的には蒲原や大井川の協同組合も使用することが考えられています。というのも、由比には港があり、その港を蒲原も利用して桜えびを水揚げしているからです。大井川の業者は由比漁港を利用することはないものの同じ漁場で水揚げをしています。由比で獲れた桜えびをそれぞれ蒲原や大井川の工場に輸送し加工する場合において、蒲原や大井川の業者が「由比桜えび」としての品質基準を満たしてさえいれば、「由比桜えび」の商標を使用してもらっても構いません。現在建設中の由比の衛生管理型漁港では由比・蒲原・大井川が一緒に桜えびの業務を展開していく前提もあります。

 2つの商標が登録されれば使い勝手は良くなるが、商標を取ることが目的ではなく、桜えびそのもののブランド化が重要なのです。

■桜えびのブランド化について、どう考えていますか。

 桜えびの水揚げ量には限度があります。いくらでも取れるわけではないから、資源に照らした資源管理型の漁業が行われているのです。限られた資源だからこそ、限られた量の中でどれだけその価値を高め利益を確保するか、そのためのブランド化です。地域ブランドとして早急に効果を出したければたくさんの金をかけてPRすればよいだけです。しかし、ブランドとはそのようなものではありません。地域ブランドの効果は実績の積み重ねで作られます。だからこそ1年・2年ではなく、長い目で見ていくことが必要で、10年後の桜えびのブランドを常に意識し取り組むことが重要です。

 地域ブランドの確立には行政の支援が欠かせなません。由比町においては、桜えびのブランド化に向け、組合と行政の連携がうまく機能しており、今後はさらに衛生面から付加価値を高めるような衛生管理型漁港の建設や、ブランド普及事業にも積極的に取り組む予定です。さらに組合間の技術交流を行い、組合員の加工技術向上を図ることで、ブランド力はさらに高まります。例えば生の桜えびの出荷が増えてきたことなどからも洗浄・殺菌に優れた技術を持つ業者との技術交流は桜えび製品の付加価値を大きく高めるものとなるでしょう。

(聞き手・清水正洋=ブランド総合研究所)

■記者の目■

 安部代表の話のように、高いブランド意識と深いブランド理解のある「由比桜えび」と「駿河湾桜えび」への期待は高まる一方です。また、組合と由比町とのブランド構築事例は今後、他地域に とっても大変参考になると感じています。   (清水) 

関連情報:
由比町桜えび商工業協同組合
http://power-dream.com/sakuraebi/

2006年6月24日

 


注目記事


Copyright (C) 2006-2011 Brand Research Institute, Inc.