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BRIレポート
地域のお宝ブランド発掘!  
Brand List No.1  『インカのめざめ』

栗やサツマイモのような甘い食味
   目下人気沸騰中の高級ジャガイモ


小粒ながら独特の甘みを宿すインカのめざめ
 東京都調布市にあるイタリアンレストラン「ラ・マンチーナ」(03-5313-5797)。京王線仙川駅周辺に住む地元民に人気の高い店でサラダを注文すると、皿には季節の野菜と肩を並べた小ぶりのジャガイモの姿があった。ひとかけらを口に放り込む。その瞬間意外な味わいに舌が敏感に反応する。ジャガイモなのに何とも甘いのである。思わずその種類をたずねた。するとマスターは明るく答えた。「インカのめざめですよ」。

 「インカのめざめ」。何だか力が沸いてきそうな、それでいて古代を感じさせるような不思議な名前のジャガイモがいま人気だ。流行りのレストランに足を運べば、運が良ければありつける。都内のスーパーでも見かけることがある。情報番組の人気司会者が絶賛し、人気グループの料理番組で国民的アイドルが紹介したことで、さらに人気が煽られた。料理に少しでも関心があり、情報感度が高い人ならその名前を一度は耳にしたことがあるだろう。

 「でも、最初はここまでメジャーになるとは思わなかった。何せ生産者にとっては扱いが厄介ですからね」と、農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターバレイショ栽培技術研究チームの研究スタッフは苦笑いしながら話す。その出生は、北海道農業試験場で、南米アンデスの在来種とアメリカ品種を交配し育成された「W822229-5」を母、濃黄色の「P10173-5」を父として交配させたことに端を発する。アンデスの在来種は、独特な食味と風味を持ち、現地南米でも高値で取引されている小粒種。それを日本のような長日条件でも栽培できるように改良したものがルーツとなった。その後、研究が重ねられ、1994年には「島系575号」と名づけられた。さらに、2001年には種苗法の基づき、品種登録される。その際、起源地と新しさを踏まえて命名された品種名が「インカのめざめ」だったわけである。「本来、品種改良では病害に強かったり、収量が多いといったことを重視する。でも、インカのめざめでは新規性を追求するため『味』に焦点を絞りました。それは従来にない新しいアプローチでした」と、研究スタッフは振り返る。

甘みと引き換えに失われたもの
 生まれた品種は確かに味では異彩を放った。ただし、その味の側面で授かった天賦の才と引き換えに、現代の野菜が持たなければならない様々な特性を失ってしまっていた。その一つが収量である。「大きさは北海道のメイン品種である『男爵』に比べると半分くらい。小粒なんですよ。だから作付面積あたりで収穫できる量もそれに比例して半分。圧倒的に少ない」(研究スタッフ)。いわば近代農業に逆行する品種というわけである。また、疫病に罹患しやすいというデメリットも持つ。非常にナイーブであり、育成には細心の注意を払う必要があるのだ。

 収穫のときにも面倒な点がある。粒が小さいため、収穫機械に搭載されたベルトコンベアーからポロポロと落ちてしまう可能性が高いのだ。生産農家の中には機械を使わずに手で掘りながら一つひとつ丁寧に収穫するところもある。

 そして、貯蔵性にも難点がある。男爵でもメークインでも収穫後3ヶ月間は芽を出さないが、インカのめざめは1ヶ月以内で萌芽してしまう。まさに目覚めが早いのである。芽吹いたジャガイモは当然売り物にならない。従って、収穫後は2〜4℃を保てる貯蔵施設で保管し、出荷まで休眠させておくことが必要となる。通常のジャガイモより余計に手間隙がかかるわけだ。

春先に出回る「越冬もの」はさらに甘い
 しかし、幾多のハードルを乗り越えてでも生産する価値が、このジャガイモにはある。「アンデスの栗じゃが」と言われる祖先の長所を見事なまでに継承した混血児は、栗のような、はたまたサツマイモのような、甘い食味を宿す。その思わず笑顔がこぼれてしまう幸せを感じる味は、グルメな消費者のハートをがっちり掴んだ。今では希少性の高さから価格は上がり、現在、生産農家からの直売で10kgあたり6000円程度。東京都区部における一般的なジャガイモの小売価格が1kgあたり約3000円なので、倍で取引される高級食材として、流通しているのである。

 生産は十勝地方が中心。収量は、05年産が作付面積で92.5ha、06年産が107.07haにとどまり、男爵の1万2300.ha、メークインの5970 haには遠く及ばない。しかし、年々その存在感は高まり、じゃがいもどころの北海道が誇る名産品として、着実に市民権を得つつある。植え付けは他のジャガイモと同じゴールデンウィークのころ。収穫時期は男爵より1週間程度早い8月中旬から下旬。秋の味覚ではあるが、春先にも流通する。春先のインカのめざめは長期間貯蔵した「越冬もの」なので、でん粉が糖化し、より甘みが増す。新じゃが特有のフレッシュさには欠けるが、その分熟成された深い味わいが楽しめるのである。

 肉じゃがにしても、グラタン、ホワイトシチューにしても、ポテトサラダ、ポテトフライ、さらには素揚げでも美味極まりない新種のじゃがいも。論より証拠、百聞は一見(験?)にしかずであり、口にしたら忘れられないその甘みを、ぜひ一度味わってみてほしいものだ。

2007年4月14日

 

 


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