自動車レースのF-1、格闘技のK-1、お笑いのM-1。各カテゴリーでグランプリを決める「-1(ハイフンワン)」のイベントが数多く見られる昨今、それらはメジャー化し、エンターテインメントとして定着した感がある。しかし、この有名どころは知っていても、「B-1グランプリ」という大会を聞いたことがある人は極めて少数派であろう。B-1グランプリ、それは、全国の各地域ならではの“B級ご当地グルメ”が一堂に会し、そのNo.1を決める、地域・食連動型の一大イベントなのである。
マイナーなB級グルメが全国で一斉に蜂起
B-1グランプリを語るときに、外せないキーパーソンがいる。富士宮やきそば学会の会長を務める渡辺英彦氏である。富士宮やきそば学会とは、渡辺氏が2000年に富士宮市で立ち上げた団体で、コシの強い麺やラードを絞った後の肉かすを使う独特の地元名物料理「富士宮やきそば」を核に、食や観光面から地域振興を目指すことを目的としている。当時、全国的には知名度の低い地元の料理を、食による本格的なまちおこしの起爆剤にするこうした動きは珍しく、これが成功を収めたことで、全国津々浦々の地域が、渡辺氏の手法を参考に同じような取り組みを始めたのである。
この地元名物料理や郷土料理は、「B級ご当地グルメ」と呼ばれるようになった。この「B級」とは決して味や品質が劣るという意味ではない。安くて旨くて地元民に愛されているという庶民的、土着的な意味合い、さらに札幌ラーメンや仙台の牛タン、大阪、広島のお好み焼きなどに比べて、その多くがマイナーな存在であり、知名度において「B級」という意味合いが込められている。それらが各地域で一斉に蜂起し、一種の“B級ご当地グルメブーム”のような現象を巻き起こしたのである。
そのひとつに、青森県八戸市周辺の郷土料理「八戸せんべい汁」による地域活性化を模索する「八戸せんべい汁研究所」があった。研究所では、食べ歩きMAPづくりや関連グッズの紹介、Webサイトの運営など自己流の広報活動を展開したが、さらに話題性の高いアプローチによる持続的なアピールを日夜思案し、思いついたのがB-1グランプリの開催である。ただし、研究所では、そのノウハウや実現するためのネットワークを持ち合わせてなかった。そこで、B級グルメのパイオニアである富士宮やきそば学会の渡辺氏に相談が持ちかけられ、渡辺氏の協力のもと、B-1グランプリ開催に向けたプロジェクトが始動したわけである。
第1回B-1グランプリでは富士宮やきそばが頂点に
そして、記念すべき第1回大会が2006年2月に開催される。企画プロデュースは生みの親である八戸せんべい汁研究所。出展者は富士宮やきそば学会、八戸せんべい汁研究所のほか、富良野カレーをたずさえた「食のトライアングル(農・商・消)研究会」や「鳥取とうふちくわ総研」、「久留米やきとり学会」など10団体を数えた。そして、来場者の投票の結果、「富士宮やきそば学会」がグランプリを獲得。大会規定により、第2回大会の開催権を得ることとなった。渡辺氏は、「富士宮市から遠い、八戸市での開催にかかわらずグランプリを取れたのは、認知度が最も高かったことが一因だと思う」と分析するが、とにかくB級ご当地グルメブームの先駆者が頂点に立つという順当な結果に終わったのだ。
その後、同年7月には、第1回大会出展者が中心となり、互助組織「B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会(通称:愛Bリーグ、事務局連絡先:0178-27-6565)」も設立された。この組織は、B級ご当地グルメのブランド化を図り、地域活性化に寄与することを目的に、B-1グランプリ開催や会員相互の連携等の活動を進めるもの。一過性のイベントにとどまらず、年間を通じた継続的な交流の枠組みが整い、会員同士の相互訪問、視察なども実施されるようになった。
「食によるまちおこしを展開したい地域は全国に数多い。しかし、単独でそれを推進するには限界がある。そこで、同じ志を持つ地域が一緒になって大きな活動につなげていくことが必要となる。B-1グランプリや愛Bリーグは、それを実現したことに意義がある」と、渡辺氏は指摘する。
小さな市民活動がやがて大きなうねりに
第2回大会は、2007年6月2日(土)、3日(日)の2日間、静岡県富士宮市で「第2回B級ご当地グルメの祭典『B-1グランプリ』in富士宮」として開催される。すでに昨年を大きく上回る22団体の参加が決定。「地元の食をPRするイベント『F-1』も併催され、期間中の来場者は、昨年の約2万人の10倍、約20万人を見込む」と、渡辺氏は期待に胸を躍らせる。
旅行業者もこの一大イベントのツアー化に乗り出し、大手では、はとバスやJTBが参加ツアーの販売を開始。そのほか、小さい旅行代理店がそれぞれツアー販売を展開中だ。「正直言って、参加者の方々が十分に料理を食べられるのか心配」と、渡辺氏からはうれしい悲鳴も聞かれる。
富士宮市は食によるまちづくりを目指す「フードバレー構想」を昨年に打ち出しており、大会運営に全面協力する構えである。こうした行政の動きが見られるようになったのも、元を辿れば、富士宮やきそば学会の発足と、それ以降の精力的な活動に行き着く。富士宮やきそばマップや公式ガイドブックの制作、グッズ販売、市内2ヶ所のアンテナショップの運営、公式ホームページからの積極的な情報発信、メディアを通じたPRなど、多岐に渡る地道な活動が、地域一丸となった動きにつながっているのだ。
これらの活動は、渡辺氏が代表を務めるNPO法人「まちづくりトップランナー ふじのみや本舗」を中心に進められている。「あくまでも市民活動として取り組む。業界団体となると、必ず運営資金集めやコンセンサスなどの問題が出る。業界への利益誘導がメインにもなる。しかし、目的はそうではなく、本質的に目指すのはまちおこし。それを突き詰めるためにはNPO法人としての市民活動が最も適している」と、渡辺氏は話す。
渡辺氏の試算によると、富士宮市ではやきそば目当てに訪れる観光客が従来はほぼ「ゼロ」だったが、今では年間60万人を数えるまでになり、観光面などを中心とした地元産業への経済波及効果は、同学会設立から6年半で200億円強にも達するという。また、東洋水産が人気ぶりに目をつけ、今年2月にカップ入りの即席めんを全国販売することになった。ついにメジャーデビューする日を迎えたのである。
さらに、富士宮市は2009年に開催される「第24回国民文化祭・しずおか2009」の数あるイベントのひとつである「食文化サミット」の開催候補地として有力視されている。以前は、「富士山」や「白糸の滝」、「朝霧高原」などの自然景観以外にほとんど観光資源を持たなかった富士宮市が、食をテーマにした国民的なイベントの開催候補地に選ばれるまでになったのだ。小さな活動がやがてうねりとなり、それが巨大な渦に成長していく。これが市民活動の醍醐味と言わんばかりに、富士宮やきそば学会に端を発した活動のスケールは日々広がりを見せているのである。
夢は“B-1グランプリ世界大会”?
すべての地域が富士宮やきそば学会のように奏功するとは限らないが、B-1グランプリはそれに向けた足がかりにはなる。出展団体が昨年比2倍に膨れていることが、その期待の大きさを物語っている。そして、B-1グランプリとその主催団体である愛Bリーグでは、さらなる発展に向けた大きな構想を描く。それは、将来的にB-1グランプリの地方予選や大都市東京での開催を目指すこと。愛Bリーグの加盟団体を現在の22団体から200団体に増やすこと。また、国内にとどまらず、海外展開にも思いを馳せる。「世界各地にもメジャー化されていない郷土料理が眠っているはず。それらの地域とネットワークを結び、B級グルメの輪を世界にも広げていきたい。メディアを活用すれば、それは実現できる」(渡辺氏)。
夢の続きに際限はない。どうやらゴールは“B級”を単に“A級”に昇格させるといった範疇を越えているようである。地域の食のブランド化に向けたひとつの有力なアプローチからは当分目を離せそうにない。
■第2回「B-1グランプリ」出品料理と出展者(予定) |
出品料理 |
団体名 |
地域 |
富良野カレー |
食のトライアングル(農・商・消)研究会 |
北海道富良野市 |
室蘭やきとり |
室蘭やきとり逸匹会 |
北海道室蘭市 |
青森生姜味噌おでん |
青森おでんの会 |
青森県青森市 |
八戸せんべい汁 |
八戸せんべい汁研究所 |
青森県八戸市 |
横手やきそば |
横手やきそば暖簾会 |
秋田県横手市 |
上州太田焼そば |
上州太田焼そばのれん会 |
群馬県太田市 |
行田ゼリーフライ |
行田ゼリーフライ研究会 |
埼玉県行田市 |
月島もんじゃ焼 |
月島もんじゃ振興会協同組合 |
東京都中央区 |
厚木シロコロ・ホルモン |
厚木シロコロ・ホルモン探検隊 |
神奈川県厚木市 |
駒ヶ根ソースかつ丼 |
駒ヶ根ソースかつ丼会 |
長野県駒ヶ根市 |
富士宮やきそば |
富士宮やきそば学会 |
静岡県富士宮市 |
浜松餃子 |
浜松餃子学会 |
静岡県浜松市 |
すその水ギョーザ |
すそのギョーザ倶楽部 |
静岡県裾野市 |
静岡おでん |
静岡おでんの会 |
静岡県静岡市 |
たまごふわふわ |
袋井市観光協会 |
静岡県袋井市 |
若狭小浜焼き鯖寿司 |
御食国若狭倶楽部 |
福井県小浜市 |
奥美濃カレー |
奥美濃カレープロジェクト実行委員会 |
岐阜県郡上市 |
各務原キムチ鍋 |
キムチ日本一の都市(まち)研究会 |
岐阜県各務原市 |
高砂にくてん |
高砂にくてん喰わん会 |
兵庫県高砂市 |
とうふちくわ |
鳥取とうふちくわ総研 |
鳥取県鳥取市 |
小倉発祥焼うどん |
小倉焼うどん研究所 |
福岡県北九州市 |
久留米やきとり |
久留米やきとり日本一の会 |
福岡県久留米市 |