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BRIレポート
地域のお宝ブランド発掘! Brand List No.8
『宇佐美本店 本橙百果汁酢 恋雫』

心地よい酸味とほんのりとした甘味 その味は“恋”のひと雫 !


橙果汁「恋雫」(150ml、850円(税込)。オンザロックで飲めば、程よい酸味と甘味が口いっぱいに広がる。実に爽やかな口当たりだ
 薄い黄色みを帯びた透明感のある果汁。ゆずでも、すだちでも、かぼすでもない。かんきつ類で最も高級といわれる「橙(だいだい)」の無添加果汁である。

 果汁そのものの味を確かめるために、大胆にもオンザロックで賞味してみる。飲む前はこの手の果汁にありがちな過度の酸味を頭に思い浮かべていた。しかし、その予感は見事に覆された。心地よい酸味があり、ほのかに甘味を感じるのである。「適度に酸っぱくて、ほんのり甘くて。まるで『恋』のようでしょう。それに橙の美味しさを凝縮した『濃い』果汁でもある。それで、商品名に『恋雫』と付けたんですよ」。販売元である宇佐美本店(福岡県北九州市小倉)の代表者を務める宇佐美志都(しづ)さんは、そうネーミングの由来を語る。

 福岡県北九州市や山口県下関市の「関門地域」の代表的な食材といえば、ふぐである。そして、ご当地でふぐを食すときに欠かせないと昔からいわれているのが、橙だ。橙の程よい酸味と甘味が、ふぐには最適というわけである。また、江戸時代、現在の山口県を拠点とした長州藩の武家屋敷では、庭先に橙の木を植えるのが慣わしだった。橙は冬になった実が年を越しても落ちずに、2〜3年にわたりなり続けることから、「だいだい(代々)」と呼ばれるようになった縁起の良い果実であり、武家では家が代々栄えるようにと、験(げん)を担いだわけである。いずれにせよ、関門地域は橙のメッカなのだ。

皇室御用達の橙をぜいたくに使用

 その橙を用いて、宇佐美本店では、数十年前から果汁づくりに励んできた。旧来から使うのは、山口県周防大島産の橙。周防大島の橙は皇室御用達の逸品であり、知る人ぞ知る由緒ある高級果実である。その橙をいわゆる「橙色」に染まる前の青い段階でもぐ。いわゆる青採り、早摘みといわれる収穫法だ。青い果実は熟したものに比べて、細胞の活性度が高く、栄養面でも、味覚面でも優れていると言われている。

 その酸度、香り、新鮮度の高いジューシーな橙を、熟練の職人たちが一つひとつ丁寧に皮をむいていく。この皮むきにも技術がある。皮と実の間のわたをどれだけ残すか、それによって、味が大きく変わってくるのだ。職人たちは、その年の果実の出来を見て、経験に基づくカンで、その残し度合いを決める。その絶妙な皮むきにより生じた実を、今度は専用の機械でギュッと絞っていく。それが、毎年均一で良質な味を誇る、宇佐美本店の橙果汁となるのだ。

 この果汁、本来は料理人向けなど業務用のみの販売に限定していた。「でも、この味をぜひ一般の方々にもお楽しみいただきたいと思いまして。創業110年周年にあたる昨年の秋に、本来業務用として20ℓタンクや一升瓶で出荷していたものを、150ml、720mlの小分けサイズでの販売を始めました。ホームページ(http://www.usamihonten.com/)でネット販売を展開するほか、福岡の岩田屋、博多大丸、東京の明治屋(広尾店、二子玉川店ほか)、銀座の専門店、羽田・福岡・北九州各空港等に加え、紀伊国屋でも販売を開始しています」と、宇佐美さん。40代後半から60代の男性などが、自らの料理と健康のために、また、贈答用に買い求めるケースが多いそうだ。「特にネット販売では男性が7割を占めます。男性客の多さは意外でしたが、おそらく本質を見極めた方々がご支持下さっているのだと思います。また、都内有名ホテルなどのバーテンダーの方がカクテル用果汁としてお求めくださっています。そういった従来は手前どものお得意様ではなかったプロの方を通じて、新しいお客様に恋雫の味が伝わることは、本当にうれしいことですね」。

創業111年、ルーツは台湾


3代目は東京農業大学醸造科で学び伝統の味に磨き、4代目はもう一つの生業である書道で味を商品名として表現。新たな世界観を構築した
 宇佐美本店のルーツは、台湾にある。明治29年に名古屋から当時日本領となっていた台湾に渡り創業。日本から呼び寄せた職人と現地で採用した職人の力を結集し、名古屋名産の八丁味噌を作り始めたのがそもそもの事始である

 その後、大正11年に北九州の小倉と山口の宇部に支店を開設。戦後、台湾と宇部の2つの拠点は閉鎖し、小倉が本拠地となる。関門地域はふぐの本場。その板場の厳しい舌に鍛えられて、主力商品である醤油やポン酢の味が磨かれていった。そして、数年前、宇佐美志都さんが4代目として家業を継承。従来業務用一筋だった商売を一般消費者向けにも広げるなど、新たな試みで老舗を引っ張っているのだ。

 「恋雫はプロの料理人が板場で使っている本格的な調味料ですが、ご家庭でも一味加えるのに役立ちます。例えば、サッと茹でたオクラに恋雫を適度にかければ、それだけで晩御飯の一品になる。さらには、天然のクエン酸が凝縮されたものなので、健康のために毎日飲むこともオススメですね。私も夏は水で薄めて、冬はお湯割で毎晩飲んでいますよ」。

亡き母との“二人展”という夢、それが今かなった

橙は語源が「代々」である縁起物で、非常に希少性が高い果実。正月の鏡餅やしめ縄に飾る添え物として古くから親しまれてきている
 宇佐美さんは、パッケージにも新しいアイデアを取り入れた。
「私の父方は醸造の家系ですが、母方は書家の家系。その母が数年前に亡くなったときに、それぞれの遺伝子を受け継いだ私にできることは何かと考えました。父の世代にできなかったことは、父方と母方のルーツを融合させること。それが私の使命だと感じたのです。私は、家業継承の以前より、書家として活動していたので、お味から商品名をネーミングし、それを書で表すことを思い立ちました」。(参考情報:http://www.shizuusami.com/〈宇佐美志都さんの書家としての活動を紹介するホームページ〉)

 宇佐美本店の伝統の味である濃口醤油の商品名。それだけは亡母の雅号である「静園」とし、文字は生前に残した書をそのまま用いた。一方、他の商品は、「恋雫」も、本醸造醤油と恋雫を混合した無添加味付けポン酢醤油「月想ひ」も、宇佐美さんが名付け親となり、母譲りの健筆を振るった。こうして、宇佐美さんが受け継いだ2本の線は、見事に重なり合い、独特かつ強固な世界観、ブランド観を描き出すことに成功したのだ。

 自分が新しい道を切り開けたことに、宇佐美さんは素直に喜びを感じている。そして、贈答用の詰め合わせセットで、母の書と自分の書がひとつの箱の中に収まっているのを目にすると、さらにうれしくなる。それには深い理由がある。

「実は、母は私と二人で書展ができたらと控えめに口にしたことがありました。でも生前はそれが実現しなかった。だから、ひとつの箱に母と私の書が並んでいるのを見ると、まるで二人展のようで、あのときの母の言葉をようやく形にできたなって、思えてくるんです」。

 折り重なる想い、そして、ストーリー。それこそがブランドを豊かにし、商品をより一層輝かせ、消費者の心を掴む。小売が軌道に乗り、恋雫をはじめとする宇佐美本店の商品が、地域を代表するブランドとなる。そんな日が来るのが今から楽しみである。

 

2007年9月2日

 

 


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