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BRIレポート
地域のお宝ブランド発掘! Brand List No.9  『おつけもの食堂』

その漬物、出自は無名の村ながらの知名度抜群 話題の漬物定食屋に迫る! !


おつけもの食堂の人気商品のひとつである「メロンのみそ漬」
 北海道余市郡赤井川村。北海道南西部に位置し、札幌や小樽などは目と鼻の先。四方を山々に囲まれたカルデラ状の自然豊かな地形が特徴だ。冬は雪深くなる寒村。夏は昼夜の温度差が激しく、果菜類の栽培に非常に適している土地柄である。
 その全国的にはさほど知名度が高くない村で今話題を呼んでいる定食屋がある。それが、本来は定食の脇役である「漬物」を“メインディッシュ”として提供する「おつけもの食堂」なのである。

 最近は新聞やテレビで取り上げられる機会も多い。昨年7月には娯楽番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」の人気コーナー「新・食わず嫌い王決定戦」で、北海道出身の俳優、大泉洋がお土産として紹介したことで、注目の的に。今年放送の同番組の総集編では、年間に紹介された100品以上のお土産の中の第19位に選ばれ、再び話題をさらう。

 マスコミによる宣伝効果は抜群で、11時〜15時までの僅か4時間の営業時間に、多い時で300人近い客が訪れる。そのうち定食を注文する客は170人くらい。残りの客はお土産として漬物をせっせと買っていく。おつけもの食堂は飾り気のないプレハブ小屋。村の中でも中心地から少し外れたところに店を構える。バスや電車で行くには非常に不便な場所である。それにも関わらず、全国津々浦々から客がマイカーで足を運ぶ。近くの有名なリゾート地である「キロロリゾート」から、寄り道してわざわざ訪れる。おつけもの食堂は今や赤井川村の観光の目玉となっているのである。

手品を封印した漬物づくり

 おつけもの食堂の人気の秘訣は何なのだろうか。まず挙げられるのが、ここでしか食べられないバラエティに富んだ漬物の味である。おつけもの食堂では、赤井川村周辺で収穫された野菜や果物を中心に、この道30年近くのベテラン漬物職人である新見愛子さんが漬ける。漬物の種類は、にんじんの味噌漬け、大根のねぎ味噌漬け、たまねぎのハスカップ漬け、コーンのピクルスなど、一般的な漬物屋ではお目にかかれないようなものがズラリ。旬のものとして、メロンやふきのとう、やちぶき、ズッキーニ、ヤーコンなどの素材も登場する。

 特に新見さんが得意とするのがピクルス、つまり酢漬けである。おつけもの食堂の管理者である瀬尾英幸さんは、「ハンバーガーなどに入っているピクルスは酸っぱくて苦手という人が少なくないと思うが、うちのピクルスは浅漬け、和風でまろやか。飽きずに、何度でも口に運びたくなるような味ですよ」と、自画自賛する。

 無添加へのこだわりも売り文句のひとつだ。これは、瀬尾さんの発案で5年ほど前に始めた挑戦だ。きっかけは、瀬尾さんが北海道のある人気漬物店で試食し、その味に疑問を感じたこと。味がいまひとつで、地元の野菜を使用せず、さらには様々な添加物が入っていた。「これは、おかしい。こんなものは本当の漬物とはいえない」。そう感じた瀬尾さんは、北海道の地場の野菜を使用しつつ、添加物を一切使わない、誰にも真似できないような漬物を作ろうと一念発起。取引のあった漬物工場を取り仕切る新見さんの協力を得て、無添加漬物づくりに取り組んだのだ。

 「化学調味料は手品のようなもの。使えば漬物はすぐに美味しくなる。私たちはその手品を自ら封印したわけです。本物の漬物を目指すがゆえの選択ですが、これが想像を絶する大変な道だった」と、瀬尾さんは振り返る。

バイキング形式・漬物専門の定食屋が誕生


プレハブの簡素な店構えである「おつけもの食堂」。店内の席数はわずか12席。休日ともなれば、4時間の営業時間は常に満席状態となる
 そこから新見さんの格闘が始まる。赤井川村で獲れた野菜を主な素材とし、塩や砂糖、醤油、味噌、酒かすなどの調味料もできる限り北海道産のものを使った。“手品抜き”の漬物づくりは困難を極めたが、新見さんは決してあきらめることなく、果敢に挑み続けた。

 同時に漬物の販売方法にも趣向を凝らした。「ちょうど漬物工場の前オーナーの娘さんが以前に経営していたプレハブの喫茶店が空き家になっていたので、それを何とか利用できないものかと考えた。ただ商品を置いて売るだけの土産物店では成功しそうもない。ならば、漬物にご飯と味噌汁を付けて提供する定食屋を開いてはどうかと思いついたんです」(瀬尾さん)。

 店名は、シンプルに「おつけもの食堂」。メニューは、食べ放題の漬物にご飯と味噌汁が付いた「おつけもの定食」が420円(税込)。それにおかず1品をつけた「村民定食」が520円(同)。基本的にはこの2種類だけである。漬物はバイキング形式にし、好きなだけ何度でも皿に盛れるようにした。

 この奇抜なアイデア。出だしは必ずしも好調とはいえなかった。何せ名の知られていない田舎の村である。客集めには当然ながら苦労した。新見さんは当時を回想する。「無添加という新しいコンセプトで、皆さんが口にしたことがないような漬物を目指して日々努力していましたが、いざ売ろうと思ってもなかなか思うように行かないのが現実。4、5年は下積みだと思って、とにかく試行錯誤を繰り返しました」

 その後、新見さんの努力の甲斐もあり、漬物の味が高い水準で安定するようになると、それにともない、口コミで評判が伝わるようになる。口コミの伝播は徐々に拡大し、村から地域、地域から北海道全体へ。さらには、噂を聞きつけたマスコミからの取材が入るようになり、いつしか全国的な話題のスポットに。苦節5年。「地元の野菜を使った無添加で珍しい漬物」、「バイキング形式の漬物専門の定食屋」というコンセプトが見事当たり、ようやく日の目を見るようになったのだ。

目指すは北海道を代表する漬物ブランド

「おつけもの定食」、「村民定食」などで食べ放題となる漬物は全部で17〜18種類。定食以外では210円の漬物試食コース(食べ放題)も用意
 休日には客足が途絶えない人気店となったおつけもの食堂だが、悩みがないわけではない。「漬物は原価もそれほど高くないので、バイキング形式の食べ放題にしても問題ないと思っていました。でも、浅漬けの漬物は食べやすいようで、特に女性のグループが来店すると、皆さん山盛りにしてサラダ感覚でペロッと平らげてしまう。時々食べられすぎて焦ることもありますね」と、瀬尾さん。しかし、そうした女性客の口コミパワーに支えられ、店が繁盛していることもまた事実。まさに「苦笑い」といった心境だろう。  

 「目指すのは、奈良漬や守口漬、べったら漬などのような漬物のブランドを作ること」と、瀬尾さん。テレビのおかげで全国的に有名にはなったものの、まだその領域には達していないと、兜の緒を締める。今年4月には、生鮮食品全般を販売する「小樽シーフーズ海商」の傘下となり、電話注文による全国販売の体制も整えたおつけもの食堂。将来的に「赤井川漬」などのブランド名で、北海道を代表するような名産となれるか。今後もしっかりと動向を見守りたい。

 

2007年9月2日

 

 


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