地域団体商標
 
 

Google ホームへ

tiiki.jpを検索
ネット検索
 

このサイトは、BRI ブランド総合研究所が運営しています<会社情報> お問い合わせは専用フォームでお寄せください

BRIレポート
地域のお宝ブランド発掘!
Brand List No.12 『明方ハム』

無加水・長期熟成により旨味が凝縮
 食感も抜群な昔懐かしい味の“幻のハム”


レトロなパッケージもブランドイメージづくりに一役買う。「明方ハム2本セット」(1本400g/2,100円・税込)。
 プレスハムという呼び名を耳にしたことがあるだろうか。

 豚のももの細切れ肉をつなぎ合わせて形成された原料をプレスする(固める)ことからそう名付けられたもの。主に食肉のブロックを作る際に出る余った肉などを活用する。安価なことから1980年代以前では庶民の間でハムといえば、このプレスハムを指すほど、広く出回っていた。海外にはそのような製法は見られず、日本独特のものとされている。

 しかし、今では、豚の背肉(ロース)を使うロースハムやもも肉で作り骨を抜くボンレスハムなどに取って代わられ、巷ではほとんど見かけなくなり、家庭の食卓に上がることもなくなった。

 その昔懐かしいハムを、岐阜県中央部の郡上市八幡町にある「JAめぐみの」では製造している。商品名は「明方ハム」という。イボのような突起に覆われた独特な形状が特徴。原料は厳選された豚もも肉をぜいたくに使用する。1953年の創業時の製法を頑なに守り、レトロな昭和の味を今に伝えているのだ。

長期熟成と乾塩法が独特の食感と旨味を生む

 明方ハムの味わいは、ひと言でいえば「実が詰まっていて、味が濃い」ということ。「食感がよく、旨味が強い」とも言い換えられる。JAめぐみの郡上本部加工事業所の熊崎和広さんはその味覚を次のように自画自賛する。

 「とにかく生で食べるのが一番うまい。肉質はプルプルで弾力があり、口の中で旨味が溶け出す感じですね。サラダや冷やし中華に入れても他の具との愛称は抜群ですよ。加えて、分厚く切ってステーキにするのもひとつの手。焼加減はほんのりキツネ色がベストで、我ながら非常に美味しくいただけると思います」。

 重量感と歯ごたえがあり、噛めばにじみ出てくる旨味。その美味しさの秘訣は、JAめぐみの伝統の製法にあるようだ。工程は、まず職人が包丁を手に、豚のもも肉から血合いやすじ、余分な脂身を除去する作業から始まる。そして、細かくカットし、塩漬(えんせき)処理した後に、約2週間熟成させる。この長い熟成が肝である。しっかりと寝かせることによって、肉の旨味がジワジワと増幅されていくのである。

 また、水は一切加えない「乾塩法」という手法を採用。一般的なプレスハムでは、3割ほど加水しかさ上げを図るのが常識のようだが、明方ハムでは、その定石を踏まず、豚が本来持っている水分のみで加工する。これが実が詰まり、味の濃い、独特の食感を生むのである。

 熟成後は、調味料で味をととのえ、さらにもも肉の赤身の強い部分のミンチをつなぎとして使い、定量をフィルムに注入していく。その後、プレス、ボイル、冷蔵庫で寝かせる作業などを経て、ようやく製品として出荷される。このプロセスは、最新の機械により多少作業に進化が見られるものの、基本的に創業時と変わっていない。50年以上にわたり、伝統の製法とそれが生み出す味を守り続けているのである。

 明方ハムは、保存料や着色料、防腐剤を一切使用していない、安心・安全な食肉製品であるという側面も見逃せない。食肉の化学的処理の問題が議論される昨今、ヘルシー志向の消費者から一定の支持を得られていることは、充分うなずける話だ。

   現在、年間出荷量は100万本にも及ぶ。店頭販売は中京、関西方面がメインだが、電話による通販も手がけている。今後はインターネット販売も展開していく予定だ。

 また、新工場が2007年5月に竣工し、6月から稼動を開始。製造能力は1.5倍ほどに増強されている。さらに新工場では、厚生労働省の衛生管理や品質管理に関する認証制度である「総合衛生管理製造過程」の取得に向けて、指導を受けるなどの活動を進めている真っ最中である。同制度は、食品の中での危害要因を分析し除去する管理手法である「HACCP(危害分析重要管理点)」の考え方を取り入れたものであり、この認証を受けられれば、食品の安全面、品質面での信頼にお墨付きを得られることになる。認証取得は2008年春の予定だ。

ほんのり紅色の完熟・南高梅を原料に

 さて、余談になるが、明方ハムと同様の製法で作られる「明宝ハム」という製品がある。この2つのプレスハムのルーツは同一。1953年に当時の明方村の奥明方農協加工所で製造に着手したのが事の始まりである。目的は、村の畜産振興と山間地の食生活改善のための動物性タンパク質の確保。今では考えられない戦後の日本ならではの発想である。そのハムは、村の名称を取って、「明方ハム」とした。

 発売当初は低迷が続いたが、1980年にNHKの「明るい農村」で紹介されると、次第に名声が全国区となり、多くのファンの支持を得ることになる。「着色料や防腐剤、酸化防止剤を使用せず、良質な国産豚のもも肉を原料とした手づくりによるハム」という売り文句が、自然食ブームに沸く消費者の心を捉え、売上げは急激な右肩上がりで伸びていったのだ。農協明方支店には早朝から長蛇の列ができ、即完売の日々が続く。入手困難なことから、「幻のハム」と呼ばれるようになったのもちょうどこの頃だ。

 しかし、1986年、人気ハムに転機が訪れる。増産を狙った新しい工場の建設を巡って、村と農協が対立。村は明方村の既存工場の拡張計画を立てたが、農協は隣の八幡町に工場を移設する計画を立案し、進めた。それに対し、村は特産品として産業の基盤にしたいとの思惑があり、農協とは別に単独で工場の拡張を推進。ここに、系譜は二手に分かれたのである。

 農協は元の明方ハムの商品名を継承。一方で村は、「明方の宝」と位置付け、新たに「明宝ハム」という商品名で売り出し始めた。村では、その後ハムに合わせるかのように、1992年に村名まで「明宝村」に改名。2004年の市町村の合併で郡上市に組み込まれたが、未だ地区の名称として明宝の名は残り今日に至る。

 今のところ、村を上げたブランド戦略が功を奏し、全国的な知名度は明宝ハムに軍配が上がっている様子。今後の本家本元の名称を伝承した「明方ハム」の巻き返しが楽しみだ。

2008年1月20日

 

 


注目記事


Copyright (C) 2006-2011 Brand Research Institute, Inc.